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henshu_ckr
2018年4月19日 20:13
「友達になろう!」 車内に声が響いた。声の主を見る。四方山が両手をぎゅっと握りしめ、辛そうに眉を歪めている。もう一度「私と、友達になろう!」と言った。「でも、僕、爆弾テロ犯ですよ。おじいさん、警察なんじゃないんですか?」「元警察だ。それに、君は一人なんだろ? 友達がいないんだろ? 家族といても息苦しいんだろう? だったら私と友達になろう。将棋を一緒に指してくれる相手が欲しかったんだ」「
2018年4月15日 20:26
ドアが開き、バスジャック犯が乗り込んでくる。「乗って来るんじゃねえぞ! おい、運転手! バスを早く出せ!」 そう言って、岡本が四方山を人質に取っていた。四方山が人質のパターンは初めてだな、さすがに現役を退いたから咄嗟に逮捕術は披露できないものか、と思っていたら、後ろから「ホントだ」と声が聞こえた。 振り返ると、そこには咲子さんが立っていた。「なんで下りてないの?」「見守ってあげ
2018年4月12日 21:09
あかいくつバスを見ながら、途方に暮れる。 テロ犯の生い立ちは壮絶だった。俺が一体なにをすれば、彼を止められるだろうか。彼のスマートフォンを取り上げても、きっとタイマーでバスは爆発する。 神様が何故俺にこの力を授けたのか知らないが、俺にまだ立ち向かえと言っているのだろうか。 俺はいつの間にかバスに乗り込み、咲子さんの隣に腰掛けていた。咲子さんが顔を上げ、口を開く。「森田くんじゃん、
2018年4月8日 19:22
十二月の風にも慣れたな、と俺は思わず笑みをこぼす。 目の前にはあかいくつバスが停留している。親父が「乗るのか? 乗らないのか?」という視線を向けてくる。俺はパスケースをタッチして清算をしながら、親父を見つめる。 親父と目と目が合う。「お疲れ様」 そう言って、俺は歩を進める。菜々子嬢のコーヒーが、スーツのすそにかかる。「すいません!」 不安の滲んだ顔で俺を見る菜々子嬢と、そ
2018年4月5日 18:56
十二月の風にも、もう慣れた。バス爆発のせいで暑かったり寒かったりで、体がおかしくなりそうだ。 目の前のあかいくつバスが、可愛らしいデザインなことにも、妙な苛立ちを覚える。 あかいくつバスに乗り込む。 バスジャック犯の目的と、乗り込んで来るまでの経緯はわかった。彼には病気の妹がいて、その手術費用をなんとかしようとしていただけで、もともとバスジャックをするつもりはなかった。 そしてバ
2018年4月1日 19:26
「おい釣りバカ、お前こっちに来いよ!」 バスジャック犯が、クラスでひとりぼっちの生徒に声をかけるみたいに、釣り人に声をかけた。いや、釣り人の格好をしているだけで、本業は別にあるということを俺は知っている。 釣り人は、自分が指名されているとは気づいていない様子で窓の外を眺めている。さすがに、自分は無関係だと思っているだろうし、このままバスジャックが解決されないと、クーラーボックスの中に死体が
2018年3月25日 21:06
目を開けると、あかいくつバスが停車している。 どうやら、神様は俺を逃がしてくれるつもりがないらしい。 じっとバスを見つめる。 重い足取りで、バスに乗り込んだ。パスケースでタッチをして清算を済ませ、運転手のそばに立つ。 バスが扉を閉めて、ゆっくりと発車する。 俺はバスをよく利用する。景観が良いからでもあるし、パワハラ上司に会うまでに遠回りをしたいからでもあるが、なにより父親が乗って
2018年3月22日 18:56
十二月の風が、今度はなんだかやけに染みた。目の前のあかいくつバスに、もう乗らなくてもいいんじゃないか、という気さえして来る。 別に、彼女を救ったから、どうこうということを期待していたわけではない。困っている人がいたら、助けたい、という気持ちに近い。そう思っていたのだが、俺はやはり、咲子さんを助けて彼女に優しくされ、感謝されたいと思っていた。 それが、蓋を開けてみたらどうか。 彼女を助
2018年3月18日 20:00
世の中で知らないうちにバスジャックブームでも起こっているのだろうか。 君が爆弾テロ犯だったのか? と目眩がし、膝から崩れ落ちそうになる。 何故なのか? 俺と別れてから変な宗教にハマってしまったのだろうか。「咲子さん、なにしてるの」「見てわかるでしょ? 選手交代でバスジャックしてるのよ」「なんでまた。どうしたんだよ」「とにかく、誰も動かないで!」「俺になら教えてくれてもいいじゃない
2018年3月11日 20:18
同じ時間を繰り返し、同じバスに乗り、バスジャックに遭っている。 だけど、バスジャック犯と組んで、事件を解決しようとしているのは初めてのことだ。「で、お前はどいつが怪しいと思うんだよ」 岡本に訊ねられ、そうですね、と俺は口を開く。「あのギターケースとクーラーボックスは怪しいですよね」 なにしろ、バスを吹き飛ばすくらいの爆弾だから、サイズもあるだろう。 くしゃくしゃ頭の男、立花
2018年3月8日 20:32
いつもの風が吹き抜けて、目の前のあかいくつバスの扉が開く。運転手からの視線を受けて、俺はバスに乗り込んだ。 七周目で、俺は自分が大きな誤解をしていたことを思い知った。 バスジャック犯と爆弾テロ犯は別にいる。 思い返せば、道理で、と思うことが多い。バスジャック犯が取り押さえられているのに、起爆できたのもおかしかったし、人が降りようとしたら爆発していた。 バスジャック犯の目的は妹の手術
2018年3月4日 20:01
バスジャック犯、岡本のリュックサックからは、爆弾ではなく葉っぱの詰まったジップロックが散乱した。おそらく脱法ドラッグだろう。 それを見下ろす岡本が大いに落胆するのを見て、俺はどういうことかと首を傾げる。 バスに乗り込んで来た時、岡本は俺が滑川なる悪党の手下なのではないか、と心配していた。「いっつもこうだ、チクショウ。オレは肝心な時にやらかす」 バスジャック犯の、弱々しい声が漏れ聞
2018年3月1日 20:45
十二月の風が吹き抜け、体が震える。 嫌な汗が流れ、さっと首に触れて確認をする。血は流れていなかった。痛みも残っていないことに、ほっとしつつ前を見ると、いつものあかいくつバスが停まっている。運転手が催促する目つきで俺を見ている。 さっきのバスジャックで得た情報を整理しながら、バスに乗り込む。 急ブレーキ作戦は悪くないと思ったのだが、首を切られるとは思っていなかった。今日はオーブンを売るこ
2018年3月1日 12:13
現在好評連載中の如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」。連載10回目を記念して、これまでに判明している登場人物の紹介と、6週目までのリープの結末をダイジェストでお送りします!■あらすじ平凡なアラサー男が、特別な力を手にした時に起る奇跡の逆転物語。主人公はバンドマンになるという夢破れた営業マン。ある日バスジャック事件に巻き込まれる。何度も“やり直し”を繰り返して明らかになって行く真実。主人公は元恋