泡坂妻夫『妖盗S79号』
怪盗ルパンのアニメ脚本を辻真先さんが書くそうですが。華麗な怪盗がここにもいます。
神出鬼没の怪盗S79号はどれほど警察に警戒されても華麗な手口で盗みだしてしまう。S79号専従捜査班の東郷・二宮のコンビは幾度も目の前で怪盗S79号に盗まれている為一種のリスペクトまで覚えてしまう。
東郷はS79号のことになると論理的でなくなり、周りの全員や部下の二宮までS79号が変装しているかもと疑うほどだ。
連作短編形式で盗みを重ねていくスタイルで、そのトリックは実にシンプルでありながら読者を騙してしまうところはマジシャンである泡坂妻夫らしいといえる。
またどこか落語のような小話から始まる編もあったり、東郷と二宮の掛け合いが毎回笑いを誘っている。
ネタバレしながら感想を書きます。未読の方は読んでから見てください。
「サファイアの空」
風船が飛ばされるからそっちにサファイアがついていると思い込まされていた。伝書鳩に括り付けられていてサファイアを盗み出した。
「庚申丸異聞」
解説にある通り東郷が演技を観察して盗みがあったと推理する所は亜愛一郎に似ていると思う。また冒頭の会話は落語っぽくもあり、面白さが際立っている。
「癸酉組一二九五三七番」
完全に騙された。
確認されるであろう当選番号表を偽造して券には手を加えない。ルーペはフェイクだった。
それと合わせ技で、チェロを二つ用意し空のチェロで会場入りした後隠れる。金が入ったチェロは車から降りずに逃げる。これで逃走完了。
「南畝の幽霊」
円空と南畝は薪とセーターになってしまった。秀子が浮気調査を頼まれた後、夫の一番大事な芸術品を壊すとすっきりするのだと唆されたのだ。
「東郷警視の花道」
二宮が今まで多額の税金に悩まされていたのは伏線だった。
南契がいる藤寺はS79号が盗んだ品があり、歴代の怪盗の品で埋め尽くされていた。S79号の窃盗は村と外部の干渉を避けるための防衛策だった。
広大な土地目当てに寄ってくる都会の人間を排除できるように。数多の芸術品を保管しておき、それを売ることで村内部で生活してきたのだった。そのおかげでおいしい空気と水、動物達が保全されている。自分達だけが生きることを考えずに、100年後の村が生きる為にS79号が仕事をした。100年前の李龍眠が今度の難を取り払ってくれた。
二宮は南契のいうことがよく分かる。死人が子供や孫の為に遺した財産に税をかけて搾取できる国というのは、とんでもない大泥棒だと......
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