泡坂妻夫『亜愛一郎の転倒』『亜愛一郎の逃亡』
伏線回収。何気なく流れていく描写を後から手がかりや根拠として活用すること。この亜愛一郎シリーズは約40pの短編ながら怒涛の伏線回収を得意としているユーモアな推理小説。
奇妙な考えや推理を展開したり、言葉遊びが度々登場したり、亜愛一郎とコントのような勘違いをしたりするあっという間に読める小説でした。
皆から愛される亜愛一郎、彼の物語がどのように終わりを迎えるか、ぜひ読んでみてください。
ネタバレしながら、感想を書きます。本作を読んでからご覧ください。
『亜愛一郎の転倒』より3つ。
「藁の猫」
DL2号機事件のような奇妙な考えが出てくる話。亜が言い出した時には、そうは思えないが、逆説の魔術師泡坂妻夫らしく伏線回収によってそう思わせる。完璧に拘っていると完璧でなくなった時に耐えられなくなる。ならばはじめから完璧でない絵を描こう。完全犯罪を避ける為に自分が犯人であることを示唆する藁の猫を持たせた。
「砂蛾家の消失」
なんとも鮮やかな消失だろう。合掌造りの家が消えたのは殆どが木で出来ている為燃えたら何もかも消え失せてしまうからだった。
夜中に家が燃えてなくなったとして朝まで全て片付けられるのか?そんな違和感を持つだろうが、その為の伏線はすでに張られている。
時計が止まり、蜘蛛は巣を張り、靴は乾き、粥は腐り、寝過ぎで身体は痛み、髭は伸びて、落ちた種が芽を出し、前日は雨なのに天気が"続く"と言われた。圧巻の伏線回収だが気付けなかった......
「意外な遺骸」
見立て殺人。歌の通りに殺したのはコレラ感染を隠すために、屍体を茹でて殺菌したいが、カモフラージュしなければならなかったから。
回文が炸裂している。
『亜愛一郎の逃亡』より3つ。
「球形の楽園」
密室殺人!密室を解かずとも殺人が成立した稀有な例。工事中のシェルターだから成立した。
「歯痛の思い出」
手続き書類を書く机にはボールペンがある。それを使えば良いのに、ポケットを探りそのまま席を離れていく人がいる。そこからは全てその人物が無くし物をどこで無くしたか思い出す為の行動だった。車を運転したり飲み物を飲んだり靴紐を結んだり、炭坑節の踊りは屍体を埋める動作で、彼は屍体遺棄の現場にペンを落としてしまっていた。
「亜愛一郎の逃亡」
亜愛一郎らはどうやって離れから脱出したのか。雪に足跡はないが、分厚い雪の下にお湯が通り、空洞が出来ていた。人魂は下から懐中電灯が透けていた証拠だ。
三角形の顔をした老婦人は亜愛一郎の世話をする絵英子だった。亜愛一郎はフツ国の王子様で、本人は日本を旅していたいのだが国王になるため連れ戻されてしまった。
歴代登場人物達は亜愛一郎の即位戴冠式に招待された。亜は国王になるとしても相変わらずで階段から転げ落ちている。"ある結末につまづける亜"(あるけつまつにつまづけるあ)
他に多くの回文が出てくる
あるいているあ
あるきあきるあ
あるいてねているあ
あるいてじたばたしているあ
あるえたろうとくどくどうろたえるあ
たのしかった短編集をありがとう泡坂妻夫先生。
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