heno

日記やエッセイ、散歩の記録。 間違っていると後から気づいても、なるべくは記事を消さない。恥をさらすだろうという抵抗感も込みで書いていきます。

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最近の記事

傘を忘れずにすんだ 2024/11/24週

 少し遅めの仕事終わりで、コウが最近よく行っているという店に向かっていた。  傘をさすかどうか迷うくらいの小雨が降っていて、アキが折りたたみ傘をひらこうとしたとき、置き傘とその日に持ってきたビニ傘の2つを持っていたコウが、「これ使ってくださいよ」と置き傘の方を渡してきてきた。  アキは片方の手で傘をさしながら、ひらきかけていた折りたたみ傘をうまく畳めずに案内されるままにまばらな人を避けながら早足のコウに付いて歩いていた。 「つか、置き傘そのまま仕事場に置いときゃよかったん

    • 何かの続きとして書かれる 2024/11/17週

       歩いているときに目にはいるものが変わってきていた。イオンの横の柵にもたれかかってニット帽を被った年配者がスマホを眺めながら何か操作をしている、通りがかりの老人の視界が何を捉えているかにじっと見とれている。逆に訝しげな視線が返される。そこで何が起こっているのか、どういうプロセスがあるのか想像はつかないが、むき出しの視線には暴力性が伴うと思うようになった。  意図の曖昧な視線でも、それをされている側にとって逆の意味に捉えられることがある。そういう権利があると思うなと反射してき

      • そういうやり方もある 2024/11/10週

        「や、おれそんな邪悪じゃないですよ」と返してきた。 「それはわかってるし、そもそも悪いだなんだとか言ってないじゃん。ただそういうふうに思っているところもあるんじゃないの、って言っただけで。実際そう思わなくもないわけでしょ?」 「ダメですよ。ダメダメ。それ言ったらもうおしまいじゃないですか。」  声にするかどうかが問題になっていた線をとうに越えていることにコウは自分で気がついた。 「あー、もうダメだ。もう何も喋りませんよ。」 「はいはい、ごめんごめん。おれがわるかったって。で

        • ずいぶん前に歯医者で、「痛いですよね」と言われたとき、ああこの人はおれが痛いと思っていることがわからないんだな、とわかったときのことを思い出す。あのとき何かが剥がれた。それかそれより前にもう剥がれていたのに気づいた。そのときはもう20代だった。

        • 傘を忘れずにすんだ 2024/11/24週

        • 何かの続きとして書かれる 2024/11/17週

        • そういうやり方もある 2024/11/10週

        • ずいぶん前に歯医者で、「痛いですよね」と言われたとき、ああこの人はおれが痛いと思っていることがわからないんだな、とわかったときのことを思い出す。あのとき何かが剥がれた。それかそれより前にもう剥がれていたのに気づいた。そのときはもう20代だった。

          いま、誰が、いつ 2024/11/03週

          2日目  生活圏以外で仕事をするのにまだ慣れることができない。  昨日の朝は4時半過ぎに起きて、5時過ぎにスーツケースをひいて駅に向かって歩いた。スーツケースを引いている音が大きい気がして少し気まずさを感じていた。意識して鼻からゆっくり空気を取り込むと、身体の傾きが変わったのか視界の端がひっぱられて遠くのマンションの輪郭を捉えていた。日が昇る前の空のあの感じはどう書けるだろうといつも思う。  それから電車に乗って、飛行機に乗って長めの移動をする前の自分の気忙しさの感覚を、

          いま、誰が、いつ 2024/11/03週

          目が覚めて、満天の星空とベタに言われるような空の眺めが頭に残っていた。ただそれだけが残っているから、それが夢なのか、いつかの思い出しなのか、昨日の夜の誇張なのか区別がつかない。はしたなくカーテンをひいて、その空ではない。4時過ぎ。

          目が覚めて、満天の星空とベタに言われるような空の眺めが頭に残っていた。ただそれだけが残っているから、それが夢なのか、いつかの思い出しなのか、昨日の夜の誇張なのか区別がつかない。はしたなくカーテンをひいて、その空ではない。4時過ぎ。

          ボイス、ボイス、ボイス 2024/10/27週

          よくあるチャット形式の インターフェースはこっちの左側に 自分のアカウント以外のボイスが 吹き出しの中に表現されることが 多いように思います 自分のアカウントは 大体こちら側ですね とはいえ noteには吹き出しの機能が ないので、これが自分のボイスで 左側が自分以外の ボイスとは解釈され づらいかもしれません 例えばこうして想像上の"半分"の境界を越えて 右寄せのブロックがこう真ん中より左に寄って いくと全体としてボイスの分割という 印象は薄れていって、この人は 何が

          ボイス、ボイス、ボイス 2024/10/27週

          フィクションだとわかっていても 2024/10/20週

           彼は随分前のnoteの投稿で、当時SNSでたまに見かけていた「友人が◯◯した」「友人が△△と言ったのを覚えている」という話法というか書き方について扱ったことがある。  その記事で彼は、これはこの書き手自身について書いたものだろうと感じたことがあるのと同時に、その話法を使うことによって自分なりの書くスペースというか構えみたいなものを確保しているのかもしれない、ということを書いた。  極端な言い方をしてしまえば「私が」と書く度胸がない、という話にはなるのかもしれないないし、彼

          フィクションだとわかっていても 2024/10/20週

          街に馴染む 2024/10/13週

           ソンコは彼女の住んでいるアパートの側の山際の道を抜けて海岸沿いの旧国道を歩くのが習慣になってから、その習慣にくっつくようにいくつか別の習慣がつくられはじめた。引っ越した後に自分の感覚が街に馴染んでいくのを、ソンコはそういう自分の習慣がつくられていることと同じだと感じていた。これまでの何度かの引っ越しでも感じてきたそういう感覚を、その度にそういえばこういう感じだったと思い出す。何で毎回忘れているんだろう、と思うと少し楽しい気分になる。  山際のアパートはその山を跨いだ裏側が

          街に馴染む 2024/10/13週

          書かないと連れていけるようにならない 2024/10/06週

           彼が自分の帰郷した姿とした藤屋という人物は、駅の近くの山際の道沿いのアパートに住んでいて、そこで言ってみれば歳をとったなりの落ち着いた生活というのに馴染んでいきつつも、それをどこか自分で演じているようなところがあると感じている。  その感覚が藤屋という人物にその地域の言葉遣いをわざわざ自分が使っているという意識をさせ、山際の道を歩いて抜けた先の海岸から見える父の病院の灯りに労うような声がふと口から漏れ出たとき、それを茶化すような考えを過ぎらせた。  彼は一時的な帰省のとき

          書かないと連れていけるようにならない 2024/10/06週

          それならよかった 2024/09/29週

           何週か前に投稿した内容と同じような目的(”実家の整理”)で帰省をしてきた。  実家に帰省してきた、と書こうとして何となくひっかかって"実家に"のところを消してしまう。その投稿でも書いたように前住んでいた家にはもう誰も住んでおらず、実家だった建物は空き家になっている。家族がそこに誰もいないという状態がそれを自然には実家と呼べなくさせている。  その投稿の中で彼と書かれていた人物は、実家が営んでいた国道沿いの店に正面から入るのに自分が抵抗を感じているのに気づいて、それならと店

          それならよかった 2024/09/29週

          体験に基づかない本当のことを書く 2024/09/22週

          noteの記事を書いていて自分なりに気づいたことを書いてみようと思う。 近ごろはフィクションというか体験に基づかない考えに任せたエッセイというかそういうものを自覚的に書いていて、結構自分でも楽しんで書けていると思う。 2022年に毎週noteを書いていたときは今より書くのがずっとつらかった。つらいというか何と言うか、自分の頭の働かせ方としてのネタを探すモードに付き合うのに疲れていたということかもしれない。 自分が気に入るようなネタを探さないと書けないなら、書くまでの時間は

          体験に基づかない本当のことを書く 2024/09/22週

          恥の多い人生 2024/09/15週

           誰もいなくなった実家の鍵を中の整理という名目で世話になっている弁護士から受け取って、明確な期限を設定されていないものの、時間が余りないことが意識されている。 「家にあったピアノはできれば売りたいと思ってます。ピアノというのは家電とは違って木とハリガネでできているんで、修理をすればやっぱりピアノということになります。他のものとは少し扱いが違ういうことになります」 「そうですか。そのあたりの判断はもう以前に送っていただいた書類でも伝えたんですが、私たちはこだわりませんので、今

          恥の多い人生 2024/09/15週

          今日は星がよく見える。あっ、比喩じゃなく。

          今日は星がよく見える。あっ、比喩じゃなく。

          使う言葉 2024/09/08週

           彼が長い間離れていて元々は実家のあった海沿いの街に住むようになってから、自分が少なくとも退屈して過ごさないでいることに、思った通りとまではいかないまでも、まあそうなるだろうと感じていた。40を過ぎてから、病院にいる父親のことをないがしろにしている感覚を前より頻繁に感じるようになっていたし、そういうネガティブな感覚よりも、その街にいる自分のほうがイメージしやすいと思うようになっていた。  最近はこういう昔だったらアパートと言っていた建物もマンションっていうようになったんです

          使う言葉 2024/09/08週

          第一回 哲学の勉強会ふりかえり 勉強会と向き合う 2024/09/01週

          諸々準備をしてきて開催した第一回 哲学の勉強会のふりかえり。 前回の記事では課題本(ルソー『社会契約論』第四篇)の内容と個人的な記憶を結びつけてみて、本で扱っている内容を個人的な文脈の上で再考するということをしてみた。それで一緒に勉強会をしている同僚に「何か途中から日記みたいになってましたね」と言われた。まあ日記っちゃ日記だと思う。とはいえ、やってみて本を読んでいたときには気づかなかったルソーの主張に対して気づいたことを自分の記憶から引っ張り出せたのはよかった。 それをざっ

          第一回 哲学の勉強会ふりかえり 勉強会と向き合う 2024/09/01週