助手席の異世界転生五月晴れ【毎週ショートショートnote】
人も車も見当たらない、ワインディングな山道を、車窓に川辺を岩肌を紅葉を過ぎ去らせながら、時速40km程度の中低速で走り抜けるのが好きだ。
運転に没頭しまくっているうちに、助手席の嫁さんは、
「ごめん……。眠くて……」
とカーブのR値に合わせて船を漕ぎ出している。車なのに船てw。我ながら、もっと今時の言い方無いんかい。
助手席でうつむいた頭を揺らしたり、Rがきつい所では、身体が腕辺りまで大きく振られている。「ごめん」と思いもするが口に出したら、目を覚まさせてしまいそうだし、正直運転が楽しくて嫁さんの様子も目の端に入れるだけだ。
道の駅に入って嫁さんは、車を降りて思いっきり背伸びをして、
「トンネルってさぁ。壁から煙吹く時あるんだねぇ」
とか言ってきた。
「……何?」
「うわ。さっきまで五月晴れだったのに寒っ。ああ、そっか。こっちは12月か。ちょっと一生を駆け足で通り抜けて来て疲れた」
……嫁は一体どこに行ってきた?
(409文字)
壁から煙が吹いて見えたんだよ(実話)。
「この冬読んでほしい一冊」ですか……。
あえて真夏のヨーロッパを感じに、
カミュの『異邦人』に行ってみませんか。
私あれ大好きなんです。と言うより、
一般的にふんわりと認識されているような、
「心の闇」的な話ではないと思っている。
書き終えてタブレットを閉じて配偶者に、
今週のお題を話してみたら……
「007?」
って答えてきた。
「アストンマーティンのシフトノブに、
隠しボタンがあって助手席が吹っ飛ぶヤツ?」
「すげー面白いけど既存の名シーンだからな。
(ネタバレになるので作品名はコメント欄に↓)
あとそれどんな異世界かイメージはあるか?」
「無い。僕異世界系よく知らないし。
だけどどっか別の世界に行ってたって、
考えたら面白いよね」
「そうだな。それで仕舞いじゃなくてな」