ちょっとどう思っていいか分からなかった話
はじめましての人も、
前から知ってる方も、
ごきげんよう。
偏光です。
これこそまさに、
（文字数：約1900文字）
かれこれ20年以上昔になる、
私がまだ九州の実家に、
両親も姉も共に住んでいた頃の話だ。
母が帰るなり、
娘二人を居間に呼んで、
爆笑しながら語り出した。
「今日ね、お母さんの仕事場に、
電話の掛かって来たとよ」
母は看護師であり、
仕事場とはつまり病院だ。
しかも電話の主は、
「そちらに■■さんいますよね？
替わって頂きたいんですけど」
と我々一家の姓をわざわざ、
名指ししてきた。
大病院であれば、
そうした電話を取り継ぐなど
考えられないと思うが、
母が勤めていたのは、
所詮小規模の町医者である。
「お電話替わりました」
と出た母に電話の相手は、
「お宅の旦那さん、
不倫してますよ」
とだけ告げて回線を切った。
「出来るもんならやってほしかぁ」
母ほどの爆笑はさすがにしないが、
娘二人もなんとも言えない笑いになった。
我が家にそんな経済的余裕が、
カケラたりともありゃしない事など、
家族こそが身をもって知っている。
いやお金とか無くたって、
不倫するクズはいるでしょう、
と思われるかもしれないが、
本気でそんな金銭的余裕無いから。
その頃父はパチンコ店の警備員で、
趣味は読書と釣りと、
自販機で出したワンカップを、
こっそりあおるくらいのもので、
（↑酔ったまま出社してクビになる、
の繰り返しでこの経済状況に至る）
あとは床に落ちているパチンコ玉を、
拾い集めてガラス瓶に詰め込んで、
「いつか打ってやろうかな
（違法なのでやらないけど）」
とほくそ笑むのが唯一の楽しみみたいな、
極小市民なので、
もしかして、
家族に隠れて不倫でもしていたら、
そりゃあ大したもんだと、
むしろ誉めてやりたいという、
切ない笑いが今読んでいる方に、
多少でも伝わってもらえるだろうか。
やがて帰って来た父親を、
一家の女性陣が半笑いで、
問い詰める一幕があったが、
大層な事でもしでかしたみたいに、
「貴子（母。仮名）には、申し訳ない」
と謝りながらも、
父が聞かせてくれた話と言えば、
パチンコ店の、
掃除に入っていたおばさんたちの中で、
最近入ったばかりでまだ慣れない感じの、
比較的若いおばさんがいたから、
彼女にだけちょいちょい挨拶して、
時々飴玉をやったりしていたと。
そんな言い訳で誤魔化されるものかと、
大抵のご家庭なら怒り出すのかもしれないが、
母と私たち姉妹は頷いていた。
この父なら有り得る。
なぜなら対人恐怖症であがり症で、
気を許した人間以外には、
そもそも声なんか掛け切れないから。
同じパチンコ店のスタッフにも、
警備会社の人たちからも、
基本的になめられまくってる結果、
ワンカップを隠れ飲むような、
酒との付き合い方も、
やめ切れずにいるような男だから。
「お父さんもお父さんだけど、
新入りの比較的若い子が、
こっそり飴玉もらってる様子を妬んで、
わざわざお父さんの妻の勤務先調べて、
しかも病院だってのに掛けてくる、
掃除のおばさんたちも相当に、
人生がしょっぱいよね」
私の容赦ないまとめ上げに、
一家中がなんとも言えない、
微妙な笑い声に満ち満ちた。
その飴玉が、
正確にいうと同じ職場内で働く、
比較的若いご婦人に対して、
飴玉をあげるという行為が、
父にとってどれほどの、
極めてささやかな、
心の慰めであったかを思うと、
「ほっといたれや」
とでもぼやきたくなるところだが、
娘の立場から実の両親に申し上げるのは、
大変に憚られたある想像も可能で、
それというのは、
「あの警備員さん、
私にだけニヤニヤ笑って近寄って来て、
こっそり飴渡してきたりもして、
怖いしキモい（泣）」
と相談された掃除仲間たちが、
むしろ気を利かせて、
その警備員の妻の職場に、
電話を掛ける事にしたパターン。
職場は誰も傷つかない。
まぁ一つの可能性だが、
有り得なくもないな。
おまけのアドベントカレンダー
世知辛い話を払拭。
亀なんだ。
主にリクガメ。
カシオペイア（ミヒャエル・エンデ『モモ』）
の影響だな。
あとジャンガリアンハムスターは、
飼っていたから愛着がある。
以上です。
ここまでを読んで下さり有難うございます。
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