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白骨化スマホ御衣黄【毎週ショートショートnote】

 御衣黄(ぎょいこう)、と言う薄緑色の花弁が開く桜がある。
 如己堂(にょこどう)、と言うささやかな観光名所で私は初めてその一本を見た。
 原爆が落とされた長崎市内で医療行為を続け、自らも白血病に侵された医師、永井隆さんが、晩年を送った二畳の小庵。美しい、と言い切るにはいささか清冽に過ぎる、薄緑色を咲かせるその木の下には、白骨化したスマホが埋まっているに違いない。
 梶井基次郎に倣ってそう妄想してみたのは、虚実入り交じる創作活動に身を置いた結果、永井さんの評価は県下に置いて大きく分かれ、全国規模でそれほど知られるものにならなかったからだ。広く知れ渡る事が必ずしも、良いとも成功とも思わないが。
 批判された理由の一つとして、「世間一般とは異なる価値感覚を表明した」点がある。その結果創作文献内の、事実と異なる部分ばかりが取り上げられ、作家としては信頼に足りないと見做された。
 情報媒体にも相当に腐乱した養分が蓄積している。


(410文字)

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