尾びれ 七緒栞菜
自分で自分がままならない。自分の感情が手に負えない。どうなってしまうのだろうとどうでもいいやが、頭の中をあてもなくさまよう。そういうときは、そのときにしか感じることのできない嫌な感じを、感じたくもないのに存分に感じる。足首をきゅっと縛られて、海の底にいる誰かからたぐり寄せられているような感覚。あてもなくではあったものの足をばたつかせながらさまよっていたはずなのに、暗くて深い知らない場所にいつの間にか引き寄せられてしまう。溺れるように苦しむのではなく、気づかぬうちに意識が遠のいていく。おそらく底からたぐり寄せている誰かは自分自身で、それすらもわかっているのに、わかっていてもその状況から逃れられない。
近頃、こういった思いを抱くことが減った。海の底にいる自分が縄をたぐり寄せる頻度が減ったのか、引きずり込まれまいと私が足に巻かれた縄をほどいたのか、海の底にいる私が縄を断ち切ったのか、などと考えていたが、ふと、最近は海の底に引きずり込まれるのではなく、私自身が海に潜れるようになったのかもしれないということに気づいた。いつやってくるかわからないあの嫌な感じ、ではなく、自分で探りに行くような感覚。自分の奥底に自分で向かっていくような。縛られて泳ぎにくかった足が、尾びれになったような。
暗くて深い知らない場所に引きずり込まれるのは怖くても、自分の足で向かうことができれば、それは未知の場所へと向かう遊泳になる。私にはままならなかった大海をいつか自由に泳ぎ回れたらと願う。