朗読台本「物語」



1  無限大。
 一秒間に、物語が生み出される数です。


2  物語とは、人によって語られるもの。その性質は、ただ「話す」こととは違います。明確な「語り手」と、それらに耳を傾ける「聞き手」とに分かれ、双方向でない、いち方向的なやりとりのなかで伝承されるもの、それが「物語」。


3  ある人は言いました。
 「神など信じていない。宗教だって、信じてなどいない。私が信じているのはただひとつ、『歴史』だ」。
 「歴史」、英語でヒストリー。そのつづりのなかには「ストーリー」が隠れています。歴史とは、人に語られてこそ、存在が許されるもの。歴史家が、その目と肌で、実際に見て、感じたことを、中立性と物語性の均衡の上で筆をとり、成立させるものです。


4  歴史と物語のはざまに横たわるのは、ほんのひと粒の感性と、知識や経験を疑うことからはじまる遊び心。いまこそ、勇気を振り絞って、たったひとつの物語を伝えるための言葉を紡(つむ)ぎましょう。その一言から、すべてがはじまります。



おわり



2018年11月に書かれたものを再掲

へみ

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