見出し画像

おじいさんと万年筆 〜高齢者施設でのちょっと特別な時間〜

千葉市の高齢者施設で暮らすおじいさんが、「万年筆を買い替えたい」と言ったのが今回の始まりだった。

30年も使い続けた一本。書くたびに手に馴染み、思い出もたくさん詰まった大切な相棒だったのだろう。でも、長年の使用で劣化し、そろそろ新しいものが欲しくなったようだった。

最初に私が選んで持って行ったのは、2万円ほどの万年筆。これなら手頃で使いやすいかな、と思ったが、どうやらおじいさんの求めるものとは違ったようだった。

「やっぱり8万円くらいのものを探してほしい」


そう言われ、さらに探していると、次の日には「もっと高くてもいいから、いいものを探してほしい」との連絡が。最終的に選んだのは、16万円の万年筆。おじいさんが30年前に買ったものと似たデザインで、それでいて少しだけ違う個性がある一本だった。

宝箱を開けるようなワクワク感


万年筆は桐の箱に入っていて、いざ開けるとき、おじいさんの顔がまるで子どもが宝箱を開けるようなワクワクした表情になった。普段はあまり感情を表に出さない方だっただけに、その瞬間がとても印象的だった。

試し書きをしてもらったが、その反応は意外にも淡々としたもの。「あぁ、いいね」と一言。でも、その手元からは満足感が伝わってきた。

高齢者にとって「欲しいものを手に入れる」ことのハードル


このおじいさんのように、高齢者施設にいる方は自由に買い物に行くことが難しい。特に、こだわりのあるものを選ぶとなると、ネットで探すのも大変だし、お店に行くのも簡単ではない。

今回のように、「昔愛用していたものと同じようなものが欲しい」「少しだけ違うデザインがいい」など、細かな希望がある場合、誰かが代わりに探すことで、その人にとって本当に価値のあるものを手に入れることができる。

私は、家族に代わってそんなお手伝いをすることができる。買い物のサポートはもちろん、時には一緒に選びに行くことも可能だ。

今回の万年筆の件で、おじいさんが見せた「ワクワクした顔」を見て改めて思った。

ただの買い物じゃなくて、「心が動く時間」を届けることができるのが、この仕事の醍醐味なのかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!