第6夜 和賀江島小唄
未だ見ぬ遠き国より
流れ着く小舟一艘
故郷のもやいを解いた時
身も心も洋上の浮草に化した
「乗せてけ」
せがむ小さき妹が岬に溶けるころ
舳先に千鳥が降りた
灼熱枯渇の幾夜
朧な灯りはやがて近づき
浮草は入江へと運ばれる
玉石で築かれた船着き場
連なる甍と寺院の鐘が心を震わす
故郷で心を決めた時
故郷は地図の模様と化した
「体には気をつけろ」
それだけを繰り返す母が握らせた
わずかな小銭を卓に残して
大乗の袈裟に替えても
根本への道程は変わらない
ただそこへ向かうのみ
そう信じて
未だ至らぬ遠き夢へと
己の躯を這い引摺って