Kamakura Betty

鎌倉は東京からわずか1時間。みんな夕方には上りの横須賀線に乗って帰ってしまうけれど、こ…

Kamakura Betty

鎌倉は東京からわずか1時間。みんな夕方には上りの横須賀線に乗って帰ってしまうけれど、この土地の朝を味わったことはありますか? まだしっとりする落ち葉を踏んで歩いた4000日から、とっておきの朝景色をお届けするワン♪ HP: https://fkan.blogspot.com/

マガジン

  • 鎌倉暁文庫

    ベティとの朝の逍遥で迷い込んだ脈絡のない書肆

  • Travel with Betty ベティとの旅

    老犬ベティはすっかり出不精。生まれた時から一緒に日本各地を旅してきたけれど、これからは暖かい部屋でゆっくり過ごそう。思い出話でもしながら…

  • 赤道直下の聖夜

    バリ島で迎えたクリスマスには幾つもの輝きがありました

最近の記事

第85夜 バカンスはアバターに

 私だって疲れる。そんな時はアバターが代わりをやってくれる。AIだから私以上のことはしない。私のバリエーションとして新しいことはしてくれる。だけどそれはあくまで私の学習結果。でもね、たまにそこから新たな発見や気づきもある。私の肉体の限界を超えてもくれる。そう、来月はひと月ずっとイビサに行くの。毎日浮かれていたいから。アイドルって華やかに見えて全然そんなことない。遅くまで撮影したり歌やダンスのお稽古したりで、窓もないスタジオの住人みたいだからたまには海の見えるソファに寝転んでず

    • 【短編小説集vol,16】鎌倉千一夜〜ちえの輪の戻し方

      第80夜 往来の残光 リタイアしてからこいつとの散歩だけが私を外に連れ出してくれる日課だ。コーギーのキッシュ、9歳。私は68歳。ドッグイヤーからしても多分まだ私の方が年上じゃないかとは思うが、日々のこの億劫さはキッシュは少しも持っておらず、朝早くに私が目覚め動き出すとすぐに散歩に連れて行ってくれることを期待してソワソワしだす。そのテンションには相当な年の差を感じる。滑川に掛かる東勝寺橋を渡り小町大路を越え宇都宮辻子を行くと段葛に出る。ちょうどその角にあるモーニングが人気のカフ

      • 第84夜 ちえの輪の戻し方

        わからない 何故こんなことになったのか あんなに苦労した末に一緒になったのに 何の力も入れることなく ピースは別々になった どうしようもない 抑えきれぬ思いで ふたつの場所をひとつにしたのに 似たような形はぴったりはまり どんな時にも離れることはなかったのに 思いがけない あなたの振る舞いは 私の思ってもみなかった心の隅の方を 剥がさなくてもいいのに剥がしてしまった そのささくれは日に日に尖る なんのことない ふとした瞬間 ささくれに触れた拍子にふたつは別々になった

        • 第83夜 愚にして鈍だが駄ではない

           湯で戻ったキャベツがカップ焼きそばのフタの凹みからなかなか取れない。横着して片手で挑んだら麺の入ったカップを流しへ落としてしまった。ステンレスの傾斜は無常にも麺たちを排水溝方面へ運ぶ。慌ててカップへ戻そうと素手で掴み上げたら、湯切り直後の熱さで思わず宙に投げ上げてしまった。給与前最後の食料はこうして流水洗濯麺となり、冷えた胃を一層唸らせることになった。  西添健太の1週間は散々な始まりとなったが、さらに月曜は日常業務で一番嫌な作業である内科棟清掃から始まる。鎌倉では一番駅か

        第85夜 バカンスはアバターに

        マガジン

        • 鎌倉暁文庫
          22本
        • Travel with Betty ベティとの旅
          17本
        • 赤道直下の聖夜
          20本

        記事

          第82夜 ミニマリストの憂鬱

          失せゆく欲、生にまつわる数多のものが途端に不要になり始めた。 食欲。肉は避けはしないが自ら選択しなくなった。野菜の食感バリエーションで十分だ。 物欲。身の回りのものが増えることに圧迫感が積る。暑寒凌げる空間のみがあれば十分だ。 性欲。条件反射は致し方ないが接触も所有も億劫、瞬時に反射現象を消滅させることは容易だ。 睡眠欲。日没3時間後に微睡、暁の鳥啼と早さを競う。 征服欲。削ぐほどに己を克服。 独占欲。あらゆることへの知足。 知識欲。量子物理学を終点とした。 怠惰欲。手を広げ

          第82夜 ミニマリストの憂鬱

          第81夜 もう一つの砂利道

           まただ。またあの夢だ。奴が出てきて友人のように時を過ごす。それ以上でも以下でもない。嫌なことをするでもされるでもない。つまり嫌な夢ではないからおそらくうなされたりしていないだろう。だが新たなレムの波が来た時なのだろう、私は子供でもないのに三輪車に乗りもどかしく見知らぬ住宅街を進む。知り合いに出くわすが、あちらはまさかこの三輪車乗りが私だとは思ってないためか、気付かずに通り過ぎていく。あまりに先に進めない状況に辟易して三輪車を捨てキックボードに乗り換え目が覚める。あまりの奇天

          第81夜 もう一つの砂利道

          第80夜 往来の残光

           リタイアしてからこいつとの散歩だけが私を外に連れ出してくれる日課だ。コーギーのキッシュ、9歳。私は68歳。ドッグイヤーからしても多分まだ私の方が年上じゃないかとは思うが、日々のこの億劫さはキッシュは少しも持っておらず、朝早くに私が目覚め動き出すとすぐに散歩に連れて行ってくれることを期待してソワソワしだす。そのテンションには相当な年の差を感じる。滑川に掛かる東勝寺橋を渡り小町大路を越え宇都宮辻子を行くと段葛に出る。ちょうどその角にあるモーニングが人気のカフェが散歩の目的地だ。

          第80夜 往来の残光

          【短編小説集vol,15】鎌倉千一夜〜天賦礼賛

          第75夜 脈打つ動静「お前、写真を撮るときに何となくシャッター切ったりはしないだろ。撮りたいところにピントを合わせて、被写体を狙っていくよな。絵画の場合は端から端まで描いていくわけだから、画家ってのは全部に気を配っているんだけど写真家は切り取ることが仕事なんだ。しかも一瞬をだ。だから写真は闇雲に撮るもんじゃねえ」 師匠はいつもいちいち口説い。写真なんて何枚か押してるうちに決定的な瞬間が写るはず。それをやれ被写体と会話しろだの、肉眼以上に寄れだの、精神論が先に来るのもなんだかう

          【短編小説集vol,15】鎌倉千一夜〜天賦礼賛

          第79夜 ビジュウの美醜

          磨かずして石は輝せず 土くれ見落とされ 煌めきは奥底に潜み 鼓動を繰り返す 綺麗を備る汚濁 醜中の美 卑しくも尊い 無垢の絢爛 数多のビジュウの 幾多の色彩が 微動だにせず 御堂にて昏昏とす 眩き滑らかな 艶しく古雅な その在処こそ 眼前の俗野なり

          第79夜 ビジュウの美醜

          第78夜 ニ千年の祈り

           衣張山を一陣の風が抜けていく。遠景にも目につく常緑の大木がその枝をわずかに揺らす。大木とはいえそこに立つのは数百年だろうが、その年月は隔世を味わうに十分すぎる。   確かに秩序は必要だった。天変地異への畏怖は蜘蛛の子を散らすより結集するほうが賢かった。手を繋ぐように寄り添い、ただ一つの偶像を崇拝することを疑わず、手を取り合い耕し産み静めた。しかしいつしか秩序は統率下となり、持つもの持たざる者、立場の差が生まれた。持たざる者は不満という大きな枷を莫大に所持し、持つ者は知足とい

          第78夜 ニ千年の祈り

          第77夜 野良亀再会

           おお〜、まだ元気でいたのか! いつぶりだろう、少なくともコロナの間は私が冬眠してたようなもんだからチャンスも減っていたけどなぁ。その大きな体は変わらずだな。そしてその太い首も。何より道路を我が物顔で歩む姿は鎌倉一の存在感だわ。  ところでもう少し急いだらどうだ? 2歩、というより8歩というのか、動くたびに首を伸ばしてあたりを伺うの繰り返し。ここは山の方から車やらバイクやら、さらに坂の勢いのまま行けるところまで行こうとする自転車やらがどんどん来るから気をつけなよ。その昔は上の

          第77夜 野良亀再会

          第76夜 天賦礼讃

           股関節の持病はおんぶ紐のせい、そんなことを言う人もいるけど、親のせいにはしたくない。その頃はきっと蝕まれようとする股関節より母の温かい背中にいることの方が優先だったはずだから。おんぶ紐とは背負う者が手仕事をしていることを意味する。そうでなければいつも赤ん坊の顔を見ていられるよう前紐にするのが親心だから。母は畑仕事が日課だった。一輪車に鍬やら肥料やらを積んで少し離れた畑へ通う。私はその背中で無防備に大の字で背中に張り付き続ける。数時間はその体勢は変わらない。いつしかガニ股が刷

          第76夜 天賦礼讃

          第75夜 脈打つ動静

          「お前、写真を撮るときに何となくシャッター切ったりはしないだろ。撮りたいところにピントを合わせて、被写体を狙っていくよな。絵画の場合は端から端まで描いていくわけだから、画家ってのは全部に気を配っているんだけど写真家は切り取ることが仕事なんだ。しかも一瞬をだ。だから写真は闇雲に撮るもんじゃねえ」 師匠はいつもいちいち口説い。写真なんて何枚か押してるうちに決定的な瞬間が写るはず。それをやれ被写体と会話しろだの、肉眼以上に寄れだの、精神論が先に来るのもなんだかうざい。 「師匠、フィ

          第75夜 脈打つ動静

          【短編小説集vol,14】鎌倉千一夜〜みちおおち

          第70夜 襖絵の忸怩「先日ね、祖母の3回忌で家を整理していたの。祖母の家は葛西が谷にあって結構な敷地にポツンと建ってるんだけど、遡れば東勝寺の塔頭だったらしいの」 柚子がそう言って私と友人の坂田が幼少を懐かしむ話をしているところに話に加わってきた。柚子は段葛から一歩入った飲食ビルの3階にある酒席『柚』の女将。6席の他の席にはまだ客はなく、私たちは誰にも遮られることなく昔話に盛り上がっていた。 「東勝寺は16世紀半ばには廃されてしまってるんだよ。お祖母さんの何代前になるんだい」

          【短編小説集vol,14】鎌倉千一夜〜みちおおち

          第74夜 豊潤の実

          青い実は熟しやがて摘み取られる 摘み取られなかったものは落実し異臭とともに変色しやがて朽ちる 摘み取られた果実は丁重に納められ 熟成を待つ ゆっくりと芳香を放ち絶頂に向かう 絶頂に達したものは朽ちない 年月とともに磨きがかかり 拝むこと触れることすら叶わない高みで あらゆるものたちの妄想を掻き立てる 摘むとは選択 納めるとは束縛 受動の中で豊潤は成る 侵されることなく

          第74夜 豊潤の実

          第73夜 マラガ港

           血統書ではこいつの名前は“マラガアリゾナ”となっていたが、せっかくの家族なので新たにベティと名付けて13年が経つ。緑内障の回避で片目を失い、原因が突き止められない前腕痛で薬無しでは跛行を見せる。だが毛並みは艶が維持され若干気弱にはなったがむしろ今が平均的な状態で、じつに可愛らしいお婆さん犬だ。  ブリーダーから引き取って来た頃はやんちゃの極みで、新調した薄ピンクのカーペットをあっという間にレモン色に染め、近所の犬へは全身全霊の手荒い挨拶を仕掛け、野良猫やリスにはドラッグカー

          第73夜 マラガ港