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第38夜 新たな台本
時は残酷ね
いつしかヒロインの友だち役
次は同じ職場の同僚
最近は遺影よ、遺影
私ちゃんと生きてるのに
あの頃の私は輝いてた
恥じらっても
わがまましても
気まぐれでも
膨れっ面すら可愛いって言われた
現場は私のリビングだった
いろんな人が来てくれて
出番の合間はインタビューや番宣収録
みんなが私を求めてた
みんなが私のこと見てた
それなのに人は勝手よ
昔は良かった
最近は演技がくどいだなんて
好き勝手言ってくれちゃって
余計なお世話よ
あの頃のイメージを手放せなくて
髪型は変えることができないの
これが私なんだもの
みんなこの私が好きなんだもの…
初心忘るべからず
昨日読んだ先達の花伝書にそうあった
どんな世代にも忘れちゃいけない
初心があるんだって
そうよ私は演じる人生を選んだんだもの
決して見られるためなんかじゃない
こんな私でも誰かの心を温められるわ
絶望の穴ぐらに
こっちこっちって
ちっちゃいけど光を届けられるかもしれないわ
髪を切ることもためらってきたけど
今こそが綺麗なの
だってこんなにも人に優しくできるんだもの
私、髪を切ります
私はこの役から生まれ変わります