
建設の黄昏
萎んでいく業界
今に始まったことではないが、私の所属している建設業界が機能不全になりつつある。
建設需要は相変わらず高い水準にあるが、この業界に所属する人間の労働力が減少しており、建設需要に対して労働力の供給が追い付かなくなりつつある。
ここ数年はこの業界の労働人口は微増しているが、労働力は下がっている。
理由は現場の高齢化である。工事現場という場所は工場のようにラインが組めない為、
自動化など不可能である。それ故に人間が直接体力を消耗させて仕事をする場合が多くなる。材料を搬入し、運搬し、加工し、施工する。その殆どは人間が直接体力を使って作業する。高齢者になれば、色々な制限が加わり全盛期の半分も仕事が出来ない。
今、現場に多くいるのはこの高齢者であり、局所的に機械を導入する事が昔に比べて
多くなって多少楽になったとはいえ、ギリギリやれている感じである。
高齢者と同じくらい若者がいれば体力を使う仕事を引き受けられるが、本当に少ない。
さて、どうして若者がこの業界、とりわけ職人と呼ばれる施工技術者にならなくなったのか?色々理由がある。その説明をしていこう。
まず学歴の話。高校、大学進学率が昔に比べて物凄く高くなったから。
2020年の大学進学率は54.4%だそうだ。うわ、すげぇ。
少子化で若者の数が昔に比べて減っているのに、大学生数も史上最高だそうである。
大学の数も今が最高だ。そりゃ許されれば誰でも行くわな。
私は思う。もし自分が大卒なら現場で働くか?と。
答えは否である。
一言でいうなら「割に合わない」だ。
東大出ていようが、国際ナントカ大学出ていようが、
最終学歴は大卒で同じである。大学出てまで肉体労働、しかも命まで危険にさらされるような職に就きたいとは思わない。ホワイトカラーとは言わないまでも、デスクワークくらいは希望したくなる。
ザックリとした感じでいえば、大卒はメーカーに、高卒は製造工場に、中卒は現場にみたいな就職観がある。下に行くほど肉体を使用する。要するにキツイし尊敬されない。
なので、よほどそれを凌駕する魅力がなければ現場を選ぶ若者が増えるとは思えない。
腰掛で長くやる気が無いにしても、現場は選ばないだろう。
時給にしたらコンビニバイトやファストフードのバイトと変わらない。ならば、労働の強度が低い方を選ぶ。
今、若い人材を業界に引き込もうとアレコレ頑張っているらしいが、原因の特定から意図的に選びたくない要素を排除しているので増えない。まぁ減る一方だろう。
選びたくない要素、それはズバリ「金を出す事」だ。
この業界はとにかく金を払いたがらない。
この業界に限った事ではないかもしれないが、まぁとにかく払いたがらない。
将来もクソもない。今季の決算だけが全てである。
昔はどうだか知らないが、今の業界は木も森も滅ぼす伐採オンリーのような業態だ。
植樹しませんか?と提案したところで、金がかかると却下されて終わり。
そのおかげで、何十年か前に若者だった者がずっと現場で同じ賃金で働き、今の若者の選択肢に入らない業種になってしまった。良かったね(笑)
ゼネコンや建材メーカーにどれだけ若者が増えても、現場の若者が増えないとこの業界はオシマイである。だって施工する人間がいなければ、建材は地べたに転がったままだから。
私は少し前に外壁屋が足らなくて外壁材が地べたにずっと置いてあった現場を経験した。
外壁をやる前に内装が始まってしまい、雨でボードや断熱材がダメになってしまった。鉄で作られているモノは錆びてしまい、現場はいつもジメジメしていてペンキも塗れなかった。
それでも外壁材は地べたに置いたままだった。ゼネコン社員が何人いようと外壁材が外壁になる事はないのだ。
物凄く遅れて外壁屋が入ってきたが、時すでに遅しで現場はボロボロだった。
まぁ終わったんだけどさ、良い建物が出来たとは到底思えない。
なんとか工期内に仕上げる事はできた。ただそれだけだ。
こんなんでいいのか?と思ったが、まぁ業界的には良いのだろう。
施工技術者に支払う金をどれだけ絞れるかという事に一所懸命なあまり、なりてが激減してしまった結果なのだから自業自得で納得という事だ。
こういう事は今後増える事はあっても、減る事は無い。
ここまでダメになっているのにもかかわらず、今業界が期待しているのは外国人労働者を増やすというアホみたいな解決策だ。この期に及んでまだ人間を安い値段で使いたがっているのだから、もはや乾いた笑いしか出てこない。
若者に選んでもらえるように若者が他業界よりも金を稼げるようなシステムにはどうしてもしたくないらしい。
昔はどうだったのかというと、バイトの賃金と比べて若い建設労働者の賃金は良かった。30年前の最低賃金は541円だ。バイトに払う賃金はこれを基準にしているので、だいたい550円くらいだったのではないかな。そのころの建設労働者には、若いもんでも爺さんでもだいたい一日8000円くらい払ったはずだ。自分とこのセガレ等使った場合はもっと低い場合はあったが、概ねこのくらいだったはず。
若者が建設を選択する理由が昔はあった。キツイが普通のバイトよりは金がイイってね。
今はどうだ?最低賃金が930円である。普通のバイトで1000円貰える時代になった。かたや建設業界の賃金は変わっていない。相対的に建設労働者の賃金は下がっているのである。絶対的な金額は変わっていないが。
若いもんや爺さんの日当は今でもだいたい8000円だから(笑)
世の中に出回る金の量は増え続けている。なのに何故施工技術者の賃金は上がらないのだろうか?答えは簡単で、上の方で金を貯め込むダムがあるから。金の量と支払い賃金の差額はどこに行ったのかといえば、このダムだ。ゼネコンの業績は好調で、過去最高益をたたき出している企業も多い。
それでも施工技術者に支払われる賃金はもうずっと同じままなのだ。
この先賃金が上がるのか?と考えてみる。私の考えでは「上がらない」だ。
上がるのはゼネコン社員、建材メーカーの給料と株主への配当だけだと思う。
上層に位置する組織に参加している人間だけが収入を多く増やす事が出来、中層に位置する人間は多少増やせて、下層はそのまま。コレが答えなんだろう、寂しいけどね。
だってもう10年以上こうなんだから希望的観測は持てない。
建設業界での階級では施工技術者は最底辺とまでは行かないが、最下層の上部みたいな位置づけである。昔は他業種に比べてこの層まで金を多く流す事をして人員を確保していたが、今はもうそういう事はやらない。これからもやらないだろう。
多くの若者が施工技術者なる道を選択する理由は、もはや皆無だ。
少数の変わり者が選択するだけだろうね。
現場ではよく安全第一という。ハッキリ言おう、嘘であると(笑)
利益第一、工期が第二、安全などは二の次だ。
まず安全を本当に第一にしてたら設定した工期では絶対に終わらない。コレはマジで絶対だ。人間は絶対に死ぬと同じくらいに絶対である。
だから現場では安全にやってますという形式だけが大事であり、安全に作業するという事に関しては抜け道探しみたいな感じでやっている。本当はダメだけど特別にいいかな?的な。
もちろん決まりはあってそれを基本的には守るが、少しの作業の安全確保の為に金を追加でかけたり日数を延ばしたりはしない。
本当ならば少しの作業でも安全を第一に置くならば、そうしなければいけない。
しかし、1時間程度で終わる作業、しかも危険作業を少しやるだけで終わるとなれば「特別でやっていいよ」となる。もちろん法的には違反だし、安全第一の看板も嘘という事になるが、現場はこういう事が日常茶飯事だ。
世代交代がもはや不可能なくらい若い担い手がいなくなってしまった業界をどのようにして復活させるのか。
そういった話題は数えきれない程出ているが、末端まで金を流すという至極分かりやすい話は聞いたことがない。
メーカーやゼネコンは新卒の給料上げる事で若者の確保に躍起になっている昨今であるが、そこだけ増やしてどーすんの?って感じ。
資材がゴロゴロ転がって足の踏み場もない現場を、指を咥えて職人が来るのを待つだけの現場が増えるばかりになるだけだと思うがね。