見出し画像

アトツギラボ【スピンオフ#1】

アトツギラボでは毎回アンケートを取っており、色々な意見やアイデアをいただきます。その中でも多かった会社見学。今回はダンボール屋のアトツギとして活躍されている洛西紙工株式会社取締役小田智英さんにご協力いただき、会社・工場見学を実施させていただきました。少人数での見学にしたからこそ、非常に深い学びとなりました。


洛西紙工株式会社(京都市西京区)

洛西紙工株式会社は、1960年創業・京都市西京区のダンボールメーカーで、ダンボールケースや強化ダンボール製什器の製造販売をはじめ、包装資材全般の取り扱いをしています。

突然やってきた人生の岐路

本編に入る前に、小田さんの経歴を簡単にご紹介しておきます。栃木県出身で、地元で代々続く日本酒酒蔵の次男として生まれました。早稲田大学卒業後はTOTO株式会社に就職。父方の家業である酒屋は兄貴が継ぐので、自分は一生サラリーマンだと思っていたそうです。しかし、営業職として軌道に乗ってきた入社5年目のある日、母方のおじいさんから突然かかってきた「会社を継いでほしい。」という一本の電話。この時は財務状況や会社の事業内容は一切不明だったそうです。これがきっかけで、自分が継がないと会社が潰れてしまうと腹を括り、2020年に京都に移住し、それまで全然関わりのなかった京都のダンボール会社という家業に入ることになります。

洛西紙工株式会社取締役の小田智英さん

会社の存在意義

洛西紙工株式会社に入社して、最初の壁となったのが、創業者である祖父や現社長の伯父との現状認識の差、決算書の捉え方や社員や会社そのものの考え方についての大きな価値観の差です。それまで雇われサラリーマンだったのに、いきなり経営者目線で物事を考えなくてはいけなくなった。入社して日々感じる疑問やギャップ。
そこで小田さんが最初に実践されたことは、会社の存在意義を徹底的に問うということでした。アトツギオタク的には、小田さんがアトツギとして実践された中で最も注目している点です。なぜなら、会社の存在意義を問うことはアトツギにしかできないことだから。しかも、小田さんの場合は、何の先入観もなく、外部からの目線で客観的に会社のことを見れる存在でした。
「洛西紙工は潰れてもいい会社か?」入社して3ヶ月。小田さんが至った結論は、得意先にだけ喜ばれる会社ではなく、社会に必要とされる会社になれば事業存続の可能性が高まるということです。そして、「事業を通じて社会課題を解決する企業を目指すこと」を決めました。

Mission
私たちは創業60年以上の歩みの中で培ってきた技術を生かし、本業を通じた社会課題解決に取り組みます。
物流や暮らしを支えるダンボール事業を通じ、関わる人の幸せを最大化し、持続可能な資源循環型社会の実現に寄与します。

洛西紙工株式会社HPから引用

家業の棚卸し

自社の強みは何なのか?大きな方向性を決めた小田さんが次にされたことが家業の棚卸しです。
ダンボールの社会価値は「資源循環の優等生」とも呼ばれる程、極めてリサイクル率(95%)が高く、循環素材(エコな素材)を使っているところです。「ダンボールならではの素材特性」や「世界トップクラスの確立されたリサイクルシステム」 を最大限に活用すると、ダンボールケースだけが用途ではないことに気付きました。こうしてレイヤーを上げたことで、既存市場や競合他社とは全く異なる領域に目を向けることができます。そして、ダンボールの新たな可能性として、社会課題の解決を目指したダンボールならではの「人にも環境にもやさしいものづくり」という軸ができました。

新規事業や社会課題解決に挑戦

2023年に小田さんは強化ダンボールの新事業を立ち上げます。地元のプロサッカーチームとのコラボ製品(ミニサッカーコートを強化ダンボールで設計等)、ギフトショー等の展示会の什器、ダンボール茶室(実寸大スケールの茶室を再現)など、強化ダンボールを用いて、既存事業のダンボールケース以外の用途の拡販が可能になりました。
また、ダンボール端材を活用した知育工作キット「SDKids」の開発、小中高大学でのキャリア教育・環境教育の実践、フードバンク事業者と連携した「子ども支援プロジェクト」への参画など、社会課題解決事業にも積極的に取り組まれます。
小田さんは未来社会に貢献するための次世代人材育成への思いが強く、各事業にその思いが見て取れます。

知育工作キット「SDKids」

強化ダンボールの新規事業では、小ロットで高収益事業が確保できたり、製品が目に見える形で社会に評価され、社員のやりがいに繋がったり、社会課題解決事業では、勝手に自社を宣伝してくれる人(アトツギオタクもその中の一人)が現れ新規案件受注に繋がったりと、得られたものは非常に大きかったと語られました
アトツギオタクとしては、「これらの新しい取組や新規事業を会社として今後の大きな柱にしていくというよりかは、会社自体の価値を高め、既存の顧客に対して、この会社と取引していて良かったと思ってもらえるように、既存事業への好循環を生んでいきたい」と話されたのが非常に印象的でした。

京都市役所前広場PJでダンボール屋台を出展

余談ですが、小田さんと出会ってから、個人的にもダンボールって面白いなと思い、「ダンボール屋台作れませんか?」と無茶振り。毎月第3金曜日に開催している京都市役所前広場活性化のプロジェクトで、ダンボール屋台を出展いただきました。(ここにたまたま参加していた人から、その場でダンボール屋台の注文が入ったとか。)無茶振りをしっかり形にしてくれる小田さんの懐の広さはさすがです。

工場見学

小田さんから一通りの説明を受けた後は、実際に工場を隅から隅までご案内いただきました。

個人的には新しく導入されたカッティングマシンが気になりました。ダンボール屋台もこれで作られたということですが、CADの勉強を一からして、設計をして、形にして、試作し微調整を繰り返してようやく完成するそうです。どんなに面白いアイデアがあっても設計できないと形にできないので、図面を引く設計が1番肝だとか。

お土産にダンボールグッズをいただきました!

実際に会社に行って話を聞くとリアリティや臨場感が全然違い、熱量もより一層感じる機会となりましたが、最後に参加者のアトツギさんの感想をご紹介します。

・小田さんはめっちゃ勉強されてて、常に社業の未来について考えられてるんだろうなという印象を持った。
・人脈で仕事に繋がってるのは運ではなく、人と対話されて想いがあるからだと思った。想いを人に伝える大切さを再認識した。
・既存の商売だけでなく、会社の将来をイメージした取組の実践、社内への伝え方の考え方など、参加者との話も含めて学びになった。
・たった3年ぐらいでここまで会社を変えることができるのかという驚きと、もっと具体的にどのような段階を経て今に至っているのか気になった。
・ダンボールの循環型資源としての可能性に視野が広がった。

オンネリネン

交流会は場所を移し、阪急嵐山線松尾駅から徒歩2分、桂川沿いにあるカフェ「オンネリネン」をお借りました。このカフェは、アトツギラボのカメラマンをしてくれている村山さんが家族で経営されています。

ここで村山さんのことも少しご紹介させていただきます。アトツギオタクとは中学校からの同級生で、高校時代から弁護士を目指し、法学部に入学するも毎年首席の秀才です。そんな彼が単位を取り終わり時間に余裕の生まれた4回生のある時、それまでずっと勉強で走り続けてきたにもかかわらず、「このまま弁護士を目指していいのか?」という疑問が湧いたそうです。一応大学院に進むも親に相談もせず、夏に退学。その後はニート期間があったとか。さすがにやばいと思い、家業である塗装資材の商社を手伝いながら、「自分のブランドを作りたい」という思いから同級生とトータルケアブランド「SHUN」を立ち上げます。
アトツギであり、起業家でもあり、カフェ経営やデザイナー、カメラマン。マルチな才能の持ち主がアトツギラボを支えてくれています。

普段の悩みや困っていること、なんとかしようと奮闘していることを話しながら、小田さんに刺激を受けたアトツギさんが今後どんな挑戦をするのか楽しみです。


アトツギラボ スピンオフ#1 開催概要
【日 時】2024年7月7日(日)10:00〜14:00
【場 所】洛西紙工株式会社、オンネリネン
【ゲスト】洛西紙工株式会社 取締役 小田智英 氏
【撮 影】村山俊輔


アトツギの未来は地域の未来。
人生にアトツギという選択肢を。

to be continued…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?