「お茶会ツアー2019」三重公演と台風、そして僕の話。
本記事は「吉澤嘉代子 お茶会ツアー2019」のネタバレを少しだけ含みます。
2019年10月12日、日本列島を超大型の台風19号が襲った。
その日の僕は本来ならば吉澤嘉代子が現在開催中の「お茶会ツアー2019」の岐阜公演に参加予定で、台風が発生してからというもの職場では仕事をしながらも常に気象庁HPと吉澤嘉代子のHPを交互に更新しながら公演開催の可否をハラハラしながら確認していた。
結局、公演2日前の夕方、岐阜公演は延期となることが発表。その翌日の松阪M'AXAで開催される(同じく参加予定だった)三重公演は予定通り開催する予定だ、とされていたが、参加予定のライブが延期になったことは少なからずショックだった。
13日の朝、テレビを点けるとそんなショックが吹っ飛ぶ程の、あまりにも辛い映像が映されていた。
決壊した堤防から茶色く濁った濁流が人々の居住地にこれでもかと流れだし、取り残された人々を消防隊員が何度も何度も往復しながら助けられていた。北陸新幹線の車両が何台も浸水する様に、誰かの家が崩れていく様に、言葉では表せない程の衝撃と悲しみを覚えた。そして関東に住む高校の同級生や沢山のTwitterのフォロワーさん達のことが心配で仕方がなかった。
そんな気持ちの中ではあったが、僕は松阪に車を走らせた。高速道路を覆う空は憎たらしい程青く、うつくしかった。
無事開催の運びとなった「お茶会ツアー2019」三重・松阪M'AXA公演。三重もまた、台風の被害が数多く発生した。松阪でも停電被害に遭われた方が多かったと聞く。そんな中開催を決断してくれた吉澤嘉代子、そして何より会場のスタッフの方には感謝しかない。
「お茶会」という名前がまさしく相応しい、沢山の参加者と共にユルりと音楽を楽しむ2時間は、テレビやTwitterで台風が残した様々な爪痕を見て消沈していた僕の心を癒してくれた。会場の皆でワイワイと楽しみながら、でも曲が始まれば吉澤嘉代子と自分だけの空間で彼女の歌を聴いているような、そんなうつくしくも不思議な2時間だった。
ライブの最期、彼女は2度目のアンコールに応えてくれた。
心を込めて。
彼女はそう話し、「ミューズ」を弾き語りで歌った。
透明な雨が降りそそぐ 川も激しく濁り やがてまた 水の底を映す
朝見たテレビに映し出された映像が脳裏にフラッシュバックした。
そして同時に、あの川達はなにも今までずっと人間の敵だった訳ではない。これまで、そしてこの先も、人々の拠り所でもあるのではないか。そんなことが頭に浮かんだ。
人間と同じように、自然もまた様々な側面を持っている。人間の悪意に打ちのめされても、誰かの一言でその傷が癒えるように、僕たちは自然の脅威と戦いながらも自然の在り様に感動することだってあるじゃないか。
勿論、被害に遭われた方は台風が、氾濫した川が、自然が憎くて怖くて仕方がないだろう。きっと僕だって当事者じゃないからこそこんな勝手なことを言っているのだろう。それでも僕は、憎しみではない、人と人とが助け合うように、自然とも共存していけたらと、この一節を聞いて思わされたのだ。
戦っている貴方は うつくしい
なによりも、今こうして僕がライブを楽しんでいる間にも、被災地で、日本中で戦い続けている人が沢山いて。被災した人も、ライフラインを復旧させる人も、救助をする人も、募金を募る人も、刻一刻と変わる状況を伝えようとする人も、みんなみんな戦っている。
戦っているすべての人は、うつくしい。
吉澤嘉代子はきっとあの時、そんな「みんな」に向けて歌を届けようとしていたのだろう。あの曲、あの瞬間の彼女は、僕へでもなければ会場の皆でもなく、日本中へ歌を届けんとばかりの絶唱だった。
その姿はあまりにもうつくしかった。
戦っているすべての人に、どうかこの歌が届きますように。そんなことを考えながら、松阪M'AXAを後にした僕の車を照らし出していた夜空もまた、どうしようもないほどにうつくしかった。