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1円でも出したらそれは奢りじゃない、割り勘だ

「あ、ここは僕が出しますんで。誘ったの、僕だし」

「いやいやそんな…あ、じゃあせめて端数だけでも」

「そうですか、じゃあ…」


はい、終了。


この男女、交際に発展しないと断言できる。



終了です。


というのはまあ、女性が男性に対してまったく気がないというのも見ていたからだけど、お会計でこんなやりとりをして、「2度目」があるとは思えない。



1円だろうが端数だろうが、出した時点で終わり。終わりなんだよ。



それはもう「奢り」でもなんでもない。

「端数」を出してもらったけどほとんど僕が払ったもんね、ほぼ奢りだもんね、じゃあないんだよ。


好きでもない男とのお茶に、1円足りとも出したくはない。



かといって、全部奢られっぱなしってのも気が引ける。気がないのに。



10001円のなかの1円を出したら、それを受け取ったらもう、それは奢りじゃないんですよ。ほぼ割り勘なんですよ。ニアリーイコール割り勘なんですよ。



好きな男とのお茶とは訳がちがう。好きな男とのデートならいくらでも出したいね。




「7割出したから」?「ほぼ払ったから」?


冗談じゃない、そんなんで「奢ってあげた」感なんか出すなよ。




と、某カフェレストランでとなりに座った男女のやりとりを小耳にはさみながら、私はひたすらせっせと参考書を開いていた。



その男女はどうやら2度目ましてくらいの仲で、テラス席で女性はほとんど男性のほうを見向きもせず外を眺めていた。ハーブティをひとつ。



男性はしきりに彼女に喋っていた。「大人しそうですね」「静かそうですね」とかなんとか。女性は「ええ、まあ」とか「前に付き合っていた人も、お互いに無口でしたね」と答えていた。



私はなんだかうんざりした。勉強しているからうるさいなんて思ったわけじゃない。私はとなりで女子大学生がキャッキャと楽しそうに喋っているのなんて全然気にならないしむしろおもしろそうと聞き耳を立てることだってあるし、やかましい婦人女子会が繰り広げられていてもおかまいなしだ。若いカップルが写真を撮りあっていようと、男性陣がひたすら女優のだれだれが可愛いと騒いでいようと、うるさいと思うことはない。




私がうんざりしたのは、どうして女性が 気乗りしていないことに男性は気づかないのか、ということだった。



挙句、割り勘だ。お茶一杯ずつでいくらだったのかわからないが(1000円とちょっとだろう)、「誘ったの、僕だし」ならきっちり全部奢りなよ…と思ってしまった。



「割り勘は縁を遠ざける」と習ったのは、去年の今ごろだった。



年下の男の子とランチをすることになり、まず第一に浮かんだのは「お会計」のことだった。



話題も服も髪もメイクも心配することなんてない、ただひとつ、お会計だけが心配になった。



年上や同級生とご飯に行くことはあっても、年下の、しかもお店の店長までやってる人とご飯なんて、どうしたらいいんだ。

私が出したら彼のプライドはどうだろう、だからといって奢ってもらうつもりはない、じゃあ割り勘か?と逡巡し、



速攻、母親にラインを打った。



「奢られると嫌だっていう男子もいるしなあ」

そうそう。


「割り勘は勧めない

割り勘は縁を遠ざける気がする

割り勘は微妙を引きずる」


と言われ、あまりに腑に落ちて笑ってしまった。



結果、その彼とのランチデートは百点満点になった。



完璧すぎて、笑い話のネタにもならないくらいにスマートだった。



と、いうのを思い出しながら、帰っていく男女を見つめ見送る。



1000円ちょっとなんて、前部奢ればよかったじゃないか。



たとえ女性が完全に気がなくとも、その端数を受け取るか受け取らないかで、印象がまるで違う。


と思う。



まあ、この前となりに座っていた女子大学生の子は「奢ってもらうの嫌なんだよねー。奢んなきゃって思われてそうで」と言っていたから、そういう人もいるんだけれど。



尽きないお会計問題。こんな他人のテーブル事情にやんややんや文句言うのって、楽しいね。いやんなっちゃうよ。

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JURIA
嬉しい!楽しい!だいすき!

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