月を見て泣いたあの日
月を見上げる時、わたしはいつも心が不安定で悲しい気持ちになる。
いや、悲しい気持ちになる時に月を見上げているのかもしれない。
その時はいつも月を見てきれいだなと思うと同時に、心の中にいる小さなわたしが泣き出すのだ。
なぜ泣くのかは自分でもよくわからない。
職場の不満だったり、人間関係がうまくいかないというありきたりな悩みかもしれないし、彼との関係に不安を覚えたり、一人の働く女性として将来が漠然と不安になったからかもしれない。
心の中の小さなわたしは、
グッと涙を堪えるように泣く。つらそうに泣く。
いっそ声を出して「うわーん!」と泣けばいいのにできない。
そして自分の部屋に入り一人になると、涙がポロポロ溢れてくる。メイクも崩れて、パンダになるまで泣いても心は不安定なまま。
脱ぎ捨てた黒いパンプス。
カバンから滑り落ちる会社の携帯、
持ち帰ってきた残りの仕事。
売り上げ目標を達成しなきゃ。
締め切りに間に合わせなきゃ。
頑張らなきゃ。
上司に怒られないように頑張らなきゃ。
他の人に迷惑をかけないように
頑張らなきゃ。
頭で思っていても、心の中にいる小さな私が拒否する。
一体なんのために。
どうして自分をすぐ犠牲にするの。
こんなにあなたは傷ついているのに。
長女として生まれたわたしは、知らぬ間に親に認められたい、お金をかけて育ててくれたのだから立派な大人になりたい。という気持ちが強くなっていた。
親が「好きなことをやりなさい」、「あなたの人生なのだからあなたが決めていいんだよ」と言われても、親が喜びそうな選択をしてきた。
国公立大学を卒業して、正社員になる。
結婚をして子供を授かって、仕事に育児にしっかりした親になるんだ。
そう信じて疑わなかった私は今、真逆の考えで生きている。
正社員じゃなくたっていい。
結婚と出産は別で考えていい。
子供を望まないのならそれでもいいんだ。
そう考えるようになったのは、
心の中にいる小さな私がいなくなってしまったから。
どこか遠くに行ってしまって、私の心は空っぽになってしまった。
その時にようやく気がついた。
私にはもう、無理だ。
今の環境や考え方で生きるのはもう無理なんだ。
そう気づいた時、今まで見ていた景色が色鮮やかに変わっていった。
私はみんなと違う選択をする。
これはいわゆる「安定」とされる道を外れることになるだろうし、親や兄弟、彼氏に心配をかけるかもしれない。
それでも私が幸せに生きることが、周囲を幸せにすると信じて。私が泣いていれば、家族も彼氏も悲しむから。
辛くて空を見上げた時に見た、あの日の月を今でも覚えている。自分を守れるのは結局自分しかいない。
同じような状況の人に届いてほしい。どうか心の中の小さなあなたがいなくなる前に、自分を守ることができますように。