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母が倒れた。

2021年6月27日

仕事の残業中に、弟からの着信があった。

「ママが救急で運ばれた」

突然の出来事に驚き、急いで荷物をまとめて職場を出た。5年ほど前、脳梗塞で倒れたことのあった母だったため、手の痺れや呂律が回らないなど、軽度の症状で済むだろうと思っていた。この時までは。

最寄りの駅からタクシーに乗り、病院へ向かった。病院に到着すると、処置室の前の椅子に父と弟が座っていた。私が到着する前に病院の先生から説明を聞いていた弟から今の症状を聞いた。

診断は、小脳出血

最悪なことに脳梗塞によって以前から服薬していた血液をサラサラにする薬で、脳の中の出血が止まらず、命の危険があるとのことだった。また、出血した血によって脳の中で水が循環することができなくなり、水頭症の危険があるといわれた。それを聞いた私は言葉を失い、ただ呆然としていた。

私が病院に到着してから30分ほど経った後、看護師の女性がやってきて、面会の案内をされた。

「コロナの影響で退院するまでの最後の面会となるかもしれません。今のうちにお母様に声をかけてあげてください」

処置室の中に通されると、ベットの上に横たわっていた母を見て言葉を失った。目が半分ほどしか開いておらず、焦点が合っていなかった。口が少し開いていたが、家族からの声かけに反応することはなかった。父は言葉を失い、弟はただただ母の手を握ってきた。

私は「みんなママが帰ってくるの待ってるからね。ママも頑張るんだよ。絶対良くなるからね」と声をかけて手を強く握った。

すると、母が自ら手を動かして、着ていた服を脱ごうともがく様子が見られた。私にはそれが母が必死に生きようともがいているようにも見えた。病気に絶対に負けない、こんな病気に負けてたまるかという意思に見えた。

面会を終えた私たちは再び処置室の前に戻ることとなった。弟はその場でしゃがみ込み、人目も気にせず泣いていた。私もただ声を上げて泣くことしかできなかった。父は、淡々と入院手続きやら治療の説明を受けていた。

看護師の女性から

「今は出血が止まるまで様子を見るしかありません。」と声をかけられ、私たち家族は車で自宅に帰ることとなった。

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