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法律事務所で仲間と音楽を作った話
法律事務所と聞いて、多くの人が思い浮かべるのはスーツ姿の弁護士たちが書類に囲まれて働く姿かもしれません。しかし、私たちの事務所「fork」には少し風変わりな一面があります。それは、音楽スタジオがあるということです。
tuning fork(音叉)に込められた想い
まず、私たちの事務所名「fork」について少し説明させてください。この名前は、tuning fork、つまり音叉を意味しています。音叉が正確な音を鳴らして周囲を調和させるように、私たちも法律の力でクライアントや社会に調和をもたらし、新しい世界を提示したいという想いが込められています。
実際に、2015年には未開拓だったeスポーツ分野の法務を開拓し、2018年には法務受託(企業内法務を、クライアントにフィットした複数弁護士の業務委託で引き受けることで、質とスピードを高める)という試みをスタートしました。当時はほとんど前例のなかったこの取り組みも、今では日本における標準的な形態となっています。
そして、音叉という名前の通り、音楽は事務所のアイデンティティの一部でもあるのです。
スタジオの誕生とその設備
エンターテイメント業界(音楽、ゲーム、アニメなど)に深く関与する当事務所では、「現場」を理解するために、実際に体験することを重視しています。
当事務所は、ライブ配信の現場でStream Deckを操作してテロップなどを表示する仕事や、eスポーツ大会で出場者たちに試合準備をアナウンスする仕事なども行ってきました。それらの一環として、日々の業務の質を高めることに加え、コミュニティへの還元を意図して設置されたのが音楽スタジオです。
このスタジオには、プロフェッショナルの現場でも使用されるNeumann U87という高品質なコンデンサーマイクや、Babyface Proというオーディオインターフェイスが備わっています。事務所メンバーの思い出が詰まった機材も加わり、事務所に関わる人々が自由に創作活動に取り組める環境が整いました。
そして、まずは友人たちと1曲だけ作って遊んでみることにしました。
ビート制作と仲間たちの協力
ビートはとにかくシンプルにするように心がけました。ラップどころか音楽活動をしたことのない友人を巻き込むことを決めていたからです。彼は器用なので、覚えればトラップのビートで3連のラップをすることも容易だったとは思うのですが、あえて自分たちの世代の日本のオールドスクールラップをしてもらいたかったのです。
まず、SubLab XLで捻りのないベースをループさせました。kickはSpliceのサンプルを用い、そのほかのドラムはLogic Proのありものから組み立てました。上物はサンプルを一つだけ選んでチョップして作成。最後にギターを一発録りで加え、仕上げました。他のものは何も入れませんでした。
LOFI ALTERNATIVEを掲げる友人に倣い、「盛る」「映える」に逆行した「ありのまま」を提示したいという意図があります。
そして、そのビートに命を吹き込んだのが、エンターテイメント業界で活躍する友人たちです。ラップとコーラスを担当してくれた3人が加わることで、素晴らしい仕上がりとなりました。ピザとヱビスビールを囲んでスタジオは熱気に包まれました。
実は前日まで、ラッパーは一人だけでした。しかし、遊びに来てくれた友人が、前日に聞いたトラックにラップを作り上げ、ぶっつけ本番で披露してくれたのです。この心意気にひどく感動し、急遽トラックを引き伸ばして2番のラップを追加しました。そしてもう一人の友人は、トラックにアイデアと厚みを持たせる声を吹き込んでくれました。ポール・オースターはきっとこんな夜を『偶然の音楽』と名づけたのではないでしょうか。
遊びで作った楽曲は、せっかくなのでリリースすることにしました。ぜひ聴いてください。
音楽がもたらす新しい視点
こうした取り組みを通じて、事務所のコミュニティの距離はぐっと縮まりました。法律の仕事では日常的に交渉や分析が求められますが、仕事のアウトプットはすべて「受け手ありきのコミュニケーション」です。音楽制作の現場でも同様に、「感じ取る力」や「即興性」が重要な役割を果たします。この体験を通じて養われる視点や発想は、結果的に法律の仕事にも良い影響を与えるはずです。
これからの挑戦
現在、私たちはさらに楽曲を制作中です。これを機に、クライアントや業界関係者を招いた音楽イベントの開催も視野に入れています。また、12月に行われるeスポーツ大会へのスポンサードも決定しています(これも「コミュニティへの還元」の一環です)。「法律事務所」という枠にとらわれず、創造的な場としての可能性を広げる挑戦はまだまだ続きます。