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ヘリコプター特有の危険状態

今回はヘリコプター特有の危険状態について、理解しやすいように箇条書きでまとめました。

JCAB(日本)及びFAA(アメリカ)の主に自家用操縦士の試験範囲になりますが
学科・オーラル試験で必ず聞かれる部分です。

また運航上でも
ヘリコプターの場合は回復操作に時間的いとまがない場合が多く
対応が遅れたり間違えたりすると機体コントロールの喪失に直結する項目もあり非常に重要な部分です。

・セットリング
・LTE
・後退翼失速
・前進翼失速(ノーズタック)
・ローター回転の低下
・マストバンピング
・ダイナミックロールオーバー
・地上共振

セットリング

とは?
パワーオンで飛行しているヘリコプターが低速状態で降下率を増やしていくと、誘導速度と機体の降下率が等しくなり翼端渦が増大し揚力を失う
CPを引き上げても渦を加速させてしまい降下率はさらに増大する
ヘリコプターにとってとても危険な状態です
※地面効果内では翼端渦が地面と干渉して減少し、セットリングは発生しない

どんな時に?
背風での低速高角度進入(相対速度の低下)
強い上昇気流でのホバリング
クイックストップ課目実施中の高度低下
重々量状態・高密度高度

回復操作は?
CPを下げて前進速度をつけて渦から離脱
回復が難しい場合はオートローテーションに入れることも考慮する

機体によって入る降下率は変わるの?
誘導速度は重量とローター直径により変わるので機体や重量状態によっても異なります
 

LTE(Loss of TailRotor Effctive)

とは?
テールローターの効力が喪失する状態です

どんな時に?
ホバリング時や低速時(転移揚力以下で出力が必要・スタビライザーが効いていない)において
左側(テールローターの吹き出しとは逆方向)から風を受けた場合、または左横進や右旋転でのテールローターボルテックスリングの干渉
※上記2つはOGEの時に起こりやすい
左前方から風を受けメインローターボルテックスリングとの干渉
後方から風を受け風見効果により急激なヨー方向への動き
※風下側への右旋回が危険

回復操作は?
左ペダルで修正操作
前進速度をつける(テールローターボルテックスリングから離脱・転移揚力・垂直安定板の効力)
高度に余裕があればパワーを減らす(反トルクを減らす)
回転が止まらないまま地面が近づいたならオートローテーション着陸も考慮する
※サイクリックの過大な操作はマストバンピングを誘発する
細かなペダルコントロールを心掛け大きなヨー運動を避ける、予期しない右ヨーを初動で抑えることで防止できる

後退翼失速

とは?
ヘリコプターは前進飛行中、前進翼側と後退翼側でフラッピングにより揚力の不均衡を解消している
前進速度がつくほど後退翼側のフラップダウンは大きくなり相対迎え角が増加する
VNEを超えるような速度で飛行した場合、後退翼側のブレードが臨界迎え角を超えて失速する
振動が起き、ジャイロプリセッションによりピッチアップ状態になる

どんな時に?
高速飛行・重々量状態・高高度・低ローター回転・急旋回(より多くの揚力・迎え角が必要)
乱気流中の飛行(下方からの突風で一時的に迎え角の増加)

回復操作は?
CP下げ(ピッチ角が減少する、抵抗が減り回転数が上がる)
急激な操作をせずサイクリックを手前に操作し速度を下げる
回転数が低ければ修正する

前進翼失速(ノーズタック)

とは?
高速飛行し前進翼側ブレード翼端上面から空気流が音速に近くなり前面空気圧縮により失速し抵抗が急激に増えノーズダウン状態となる
以上の状態でサイクリックを手前に引くと前進ブレードはピッチアップするのでさらに上面の流速が早くなり状態が悪化してしまう
※気温が低ければ音速は下がる

回復操作は?
回復は基本的に不可能ですが
CPを下げて前進ブレードのピッチダウン(上面の流速を遅くする)
回転数が高ければ修正する

ローター回転の低下

とは?
密度高度の高い条件下で揚力を維持するために高いピッチ角になり抵抗が増加しエンジン出力が最大でもローターの回転が維持できなくなる

回復操作は?
CP下げで抵抗を減らして回転を維持する
速度をVY(R22だと53Kts)に近づけて使用できるパワーに余裕を持つ

マストバンピング

とは?
シーソーローターのヘリでLOW G状態になると操作したローターディスクの傾きに対して機体が追従せず、過大な操作をした場合ローターヘッドとマストが接触し破断することがある
LOW G状態になるとテールスラストと重心位置の関係から機体は右にロールする、LOW G状態から回復する前のサイクリック操作はマストバンピングの危険性が高い
※低回転状態では遠心力が少ないため、フラッピングが大きくなりマストバンピングの危
険性が高まる

どんな時に?
上昇からのレベルオフ
上昇中にCPを過大に下げる操作

回復方法は?
右にロールしても先にサイクリックを後ろに操作し1G状態を確立した後にロールを戻す

ダイナミックロールオーバー

とは?
ヘリコプターが離着陸の際にスキッド・車輪の接地点を中心に急激に旋転し横転してしまう現象
旋転が始まってしまうとメインローターの発生する揚力の傾きにより接地点を中心に旋転方向に加速させてしまいスタティックロールオバー角(R22で42°)よりも小さい傾きで横転してしまう
また自由飛行時だと重心位置を中心に動いているがこの場合だと接地点を中心に旋転するため慣性モーメントは約9倍になりサイクリックによるロールコントロールでのリカバリーは難しい
※右ロールでサイクリックを左に操作してもメインローターの推力は回転支点の左側にあるためサイクリックでのリカバリーはできない(SN-9)
テールローターのスラストにより右方向へのロールは特に注意する

どんな時に?
不整地(木の根・凍結・やわらかい地面など)
傾斜地(舵の当てすぎ・傾斜地運用限界の超過)
横風などで横進しながらの接地
重心位置が逸脱している場合
回復操作は?
CPダウン(揚力を減らす)
また、回復は非常に困難なので外部点検時に着陸装置周りの点検、離着陸時に接地面の状態を確認、離着陸時に急激な操作をしない、風に正対して離着陸、傾斜地での適切な離着陸操作により予防できる
 

地上共振

とは?
全関節型のヘリコプターで接地時の衝撃により各メインローターブレードのリード・ラグ方向のバランスが崩れ回転軸に対してメインローターの重心位置がずれ振動が発生する
ローター振動と脚ストラットの伸縮が共振し振動が拡大し最終的に機体を構造的に破壊する現象

回復操作は?
離陸できる回転数があれば離陸する(共振をなくす)
可能な限り早くエンジンをシャットダウンする

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