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この方の作品に10年来、片思いしている 【志村ふくみ特別展@大倉集古館】

一生で出会う「好き」には色々あるし、その出会い方は人それぞれ。
好きな人、好きなこと、好きな音楽、好きな言葉。
一目惚れもあれば、人におすすめしてもらって好きになることもあるし、出会った時は何とも思わなくてもだんだん好きになるパターンもある。

私が自信を持って「人生でトップクラスに好き」と言えることの一つに、染織家・志村ふくみの作品がある。志村ふくみさん:植物染料で染色し紬織着物を織る、御年100歳の人間国宝(重要無形文化財保持者)。

はじまりは、高校生の時に模試かなにかで使われていた志村ふくみのエッセイだった。確か大佛次郎賞を受賞した『一色一生』で、当時の私には少し難しかったが、国語の試験そっちのけで「なんて素朴で美しい文章なんだろう」と噛み締めた記憶がある。

そのあと読書から離れた時期があったが、大学生になって表紙買いしたエッセイ集『色を奏でる』で再会。初対面の時と変わらず素朴で美しく、優しくて強い言葉が溢れたエッセイだけでなく、その合間を彩る織物の写真の美しさに惚れ惚れとした。

そんなこんなでお気に入りの随筆家となった志村ふくみの本業を一度はこの目で見てみたいと漠然と思っていた数年前、偶然、世田谷美術館の展覧会で着物の作品が展示されると知って、いそいそと出かけて行ったのだが。

初めて対面した瞬間に、恋に落ちていた。
美しすぎて言葉にできない。感動して涙が出る。

小説やテレビでしか見たことがない表現がこんなにしっくりくる状況を実際に体験したのは初めてだった。自分の身体的な反応に戸惑ってその場に立ち尽くすくらいまでに。

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今回、彼女が100歳になったことを記念して、大倉集古館で特別展が開催された。私の中では出会って10年余りの、とても可愛らしいおばあさまというイメージだったので、100歳!?と驚きつつ、またいそいそと出かける。大倉集古館に行くのも初めてで、着いたら意外とこぢんまりしていたので「こんなものかなぁ〜」とか思っていたのだが。(その時の自分を一回ぶん殴っておきたい笑)

心が震えるとはこういうことだったのかと、衝撃を受けた。
「これは運命だ」と周りが見えなくなるくらい、惚れ込んだ。

エントランスを入ってすぐ、天井の高さくらい大きな《母衣曼荼羅Ⅱ》の鮮やかさに圧倒され、その青い世界にそのまま吸い込まれそうになる。やっとの思いで現世(うつしよ)に踏みとどまって歩を進めるが、こじんまりした展示室ながらも、草木の精気が匂い立つ着物たちに四方を囲まれて夢見心地にならざるを得ない。

深い森の木漏れ日か高温高圧で悠久の時に閉じ込められた岩石の中の鉱石を思わせる《光の道》の荘厳さに心震わせ、月明かりに照らされる湖面が幻想的な《月の湖》にうっとりし、薄緑が透ける生糸を染めずにそのまま織った《天蚕の夢》は桑の葉の精気を感じ、狩衣《竜神》では雷を思わせる力強い光の輝きが目に沁みて。

単純に目に映る光や色が美しいことは言わずもがな、お気に入りのエッセイでの描写が次々と思い出されて、二重で心に迫り来るものがあって、一人うるうるしていた。

なんとか正気を保ちながら見終わり、後ろ髪引かれながらお土産コーナーでポストカードを選んでいたら、見覚えのない作品がある。なんと、会期間の後半は別の作品と入れ替えになるらしい。来年1月までだと。嗚呼、また来なくては。

この恋は重症だ。

↑もし気になった方がいれば、ぜひ!
来年1月19日までの開催です。

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