季語六角成分図「暖か」
俳句ポスト 第272回 2022年3月20日週の兼題。
季語六角成分図「暖か」より。
(視覚)春の光景、うらうらとした日差し、薄青の明るい空、雨もあり。自然物でも人工物でも屋内でも。芽吹き、花咲く野や森。猫や小鳥などの動物。
(嗅覚)草、土、水の匂い、生き物の匂い。
(聴覚)そよ風、せせらぎ、鳥のさえずり、猫の恋。
(触覚)暖かさにゆるむ身体や肌。コートを脱ぐ。
(味覚)なし。
(連想力)眠気、生命の営み、大らかさ、のんびり。以下参照。
★暑くも寒くもない、春の心地よく温暖な陽気。夏の「暑し」、秋の「冷やか」、冬の「寒し」と並ぶ、季節を代表する寒暖系時候季語。触覚が強いほかはあまり実感覚を持たない(視覚、嗅覚、聴覚は連想力の産物)ため、具体的な感覚を足す必要があります。
★かなり広範な取り合わせができる季語で、オリジナリティ、焦点の絞り方、描写の精度がポイントか。また、季語としては気候的な暖かさのことで、心理的なあたたかさを重ねる際には注意する必要があります。
★2015年4月2日の週に「暖か」が、2020年3月5日の週に「春暖」が兼題となっており、謂わば2回既出の題。この文章も前回の「春暖」の考察を加筆修正して作成しています。
★前回、私は『「暖か」と「春暖」を比べると、形容(動)詞の語幹⇔名詞、発音がおおらか(あ行の音)⇔やや硬く鋭い(濁音や'ン'の音)、和語っぽい⇔漢語っぽい、などの違いがあります。』と書きました。
そして、組長は「春暖」の際の選評に、『こうやって考察してみると、季語「春暖」は暖かに比べて、曖昧かつ複雑なニュアンスを受けとめる性質があることに気づきます。』とお書きになっています。
これらを総合すると、「暖か」は、春暖とは違い、おおらかな春の暖かさをストレートに表現する季語だと思われます。また、形容(動)詞(の語幹)だというのも春暖とは異なるアプローチが必要となりますね。