今朝の秋千里の馬を相しけり
という、碧梧桐揮毫の軸を入手しました。
(記:いけだ)
せっかく入手したので色々調べてみます。
書体
だいぶ後期の揮毫。昭和に入って俳句引退するかしたか、な時期でしょうか。
俳句
後期に書かれたものの割に、定型俳句です。
碧梧桐は自ら古い自分の俳句は書かないので、どこか旅立つ前に稼ぐための、リクエスト式の揮毫会で書かれたもの?と推測。
この俳句について手元の句集をめくると、岩波文庫の『碧梧桐俳句集』で掲載を確認。明治32(1899)年、「春夏秋冬」雑誌の頃に詠まれたものだそう。
今朝の秋
季語です。
検索すると、「秋めいた感じになった朝。立秋の日の朝をいう。」で、例にこの俳句が引用されています。結構知られた俳句なんですね。
秋めいた感じになった朝!ここ最近(2024年9月中旬)のことじゃないですか!昼はまだ夏だけど……朝は秋の気候……
あと、碧梧桐はよく「秋」の字の部首とつくりを逆に置いているのをよく見ます。
こちらも「部首とつくり 逆」で検索したら、レファレンス協同データベースで以下のように紹介されていました。「動用字」というそうで、この質問にある通り「秋」は動用字の代表格なのかしら
千里の馬
『碧梧桐俳句集』によると「一日に千里の道も走れるほどの優れた馬。転じて、優れた才能の人物。」とありました。
単純に、今から一緒に長く旅するお馬さんかな?と思っていたら、つまり優秀な馬のことでした。
この俳句の内容的には人物ではないと思ったので、今から一緒に長く旅する、体力がすごいある優秀なお馬さん、と理解しておきます。
相しける
……をさまざま検索かけて、これは「相(そう)する」でしょうか。
意味は「物事の姿や有様をみて、その実体を判定する。鑑定する。見たてる。」または「人相・家相・地相などをみて、吉凶を判断する。占う。」
ちゃんと”見た”うえで、判断するという言葉のようですね。
今回の場合は優秀なお馬さんを選ぶなので、「見たてる」が適当でしょうか。
以上から、この俳句は
秋めいた感じになったある朝、これから長く旅を共にする優秀な馬を見立てるぞ
という意味なんじゃないかと想像しました。
気候が涼しくなってきた秋、旅立ちによい季節!これから旅が始まる、静かに浮き立っている気持ちも読み取れます。いいお馬さん見つかると良いね…と思わず祈ってしまいます。よい旅を〜!
おまけ
この俳句、どこかで引用されていないかと国立国会図書館デジタルコレクションで検索してみると、寒川鼠骨編の『明治四大家俳句集 秋冬』の秋の部=時候に載ってました。
この「今朝の秋千里の馬を相しけり」と一緒に選ばれていた俳句が「曇れども蒸さず秋立つ日なりけり」。
わ、わかる〜…!今の残暑で蒸し蒸しの気候も、いつしか秋に移り変わるうちに曇ってたとしてもカラッと乾燥する空気になっていくんだ〜…秋を感じる実感の一つだよなあ(ここで秋らしい空が高い晴れた様子を詠むのではなく、曇りを詠むのがなんとなく碧梧桐っぽい)
碧梧桐、秋の実感詠むのうますぎだろ…… ということだけ言いたかったおまけでした。