衝動・情熱・感動

よく新人バンドのデビューアルバムのレビューで、「初期衝動一発」みたいな言い方がある。稚拙ながらも、初めて乗った車でいきなりトップスピードを出すような、真っ直ぐに最高速度で突っ走るような快感。そこに、ある一瞬にしか存在しえない時間を感じて、胸を打たれてしまったりする。

“TRANSIT”などを創刊した加藤さんが新しい雑誌を作られた。
加藤さんのnoteに創刊までの経緯が断続的に綴られていて、新しいことが始まる予感にわくわくしながら、本の完成を待っていた。そして出来上がった雑誌は、とんでもないものだった。

画像1

インドのタラブックスに感銘を受け雑誌を作るエネルギーが湧いたというお話通り、加藤さんがインドで受けたその衝動が、そのまま衝撃でもって伝わってくる。それはテキストの内容や写真からはもちろん、分厚い中綴じ・オフセットとリソグラフを使い分ける印刷仕様からもビシビシと迫ってくる。細かい字でびっしりと書かれた情熱的で、どこか情緒的な文字群は、ビジュアル的にも相当なインパクトがある(最近の文字サイズを大きくする風潮には辟易とするぜ!)。それでいて、言いたいこと、感じたことは、これでも書き切れていないんだろうなと思わせてくるのだ。

この正直すぎる情熱を、批判する人もいるかもしれない。今時こんな細かい文字、読まないよ、とか。どうせ、タラブックス見てリソグラフやりたくなったんでしょ、とか。(そもそもこういう発想をしちゃう時点で、自分にうんざりするんだけど)
でもそんな奴らを一発でぶっ飛ばすくらいの破壊力があるし、加藤さんはきっと、そういう人を相手にする気はさらさらないんじゃなかろうか。

大きな感動と共に、「昔みたいな面白い雑誌は、時代的に無理だよね」と知った顔をしていた自分を恥ずかしく思った。時代や年齢なんて関係なく、情熱や衝動を形にする人は、いるんだと思った。そしてそういうものを見て、自分はデザイナーに憧れたんだよな、と思い出した。そうだ、こういう衝撃をかたちにしていることに感動していたんだ、と。

あんまりにも嬉しかったものだから、いろんな人に「すごい雑誌でたよ!」と話をしていたら、コピーライターの深澤冠さんから、「松田さんこれ絶対好きですよ」と、こうの史代さん(“この世界の片隅に”や“夕凪の街 桜の国”の著者)の“平凡倶楽部”を教えてもらった。

画像2

こうのさんのエッセイ漫画(?)をまとめた一冊なのだが、その手法が所謂エッセイ漫画的ではなく、まるで一人で雑誌を作ろうとしているかのような多彩さなのだ。
文字の太さだけで絵を浮かび上がらせたり(内容はそれに関係なく面白い)、ハンコだけで絵を作ったり、デジカメの練習みたいな記事があったり……そのときそのときにやりたいことをやっているように感じて、これまた衝動的で素晴らしい本であった。


前回、「あんまり話合ったりしないのが案外長く続いているんですよ」と書いた後に、その内情を考えていたのだけれど、“NEUTRAL COLORS”や“平凡倶楽部”を見ていると、結構こういうことなのかもしれない、と、勝手に励まされるのでありました。

(松田でした)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?