創作BL「ディファレント・ライブズ②」ツイノベ続き
①は以下に
初めて会った時。
その男は父の従者だった――
当時は、まだ相当に若かったろう。
けれども、その頬はひどく陰りを帯びていた。
美しい横顔だった。
わたしには、横顔の記憶しかない。
彼は父しか見ていなかったから。
ただ父だけを、見つめていた。
彼にとっては、わたしなど、その場に存在しないも同然だった。
皇領随一の美女と謳われた母のことすら、その眼中にはなかった。
アルシング稀代の知将――闘神とも讃えられていた父は、その武勲に報いるためにと、皇帝最愛の第三皇女を与えられた。
報償としての妻。武人への降嫁。
それでもふたりの間には愛が生まれた。
父は母だけを見ていた。
そして「母が愛する」わたしを。
あれは――
おそらく、わたしの人生で最も幸せだったはずの頃。
――母が生きていた頃。
愛する妻の姿がない、ただ思い出しかない場所がつらいのか。
少しずつ父の足は、わたしたちの館から遠ざかる。
他に女はいなかった。
ほんの遊び女の影すら見えなかった。
父は母だけを愛していたのだ。ただ、忘れられずに。
あの男は――
いつしか父の副官になっていた。
戦場でも、皇領でも。常に影のように付き従い、片時も離れることなく。
時折、館に戻る父に付いて、あの男もやってくる。
精悍さと大胆さを増した、美しくも男らしい頬を首筋を、睫毛を。
わたしは、その横顔を、ただ見つめていた。
思慕、愛情、欲情。
そんな言葉になど、あてはめられない。
どこに置くべきなのか分からない思いだけが、石灰質の水のように滴り落ちて蓄積して。
執着、憎悪、嫉妬。
あらゆる負の感情。
美しい――彼の横顔。
そして、あの男のすべてだった父が死んだ。
わたしを守るために。
身代わりのようにして、逆臣の白刃に切り裂かれた。