夏祭りの日。訪れる運命の瞬間
青年は、あの人の大学に遊びに行った時のコトを思い出していました。
「そういえば、不思議なコトが2つあったな…」
1つは、女の子の友達がやって来て、何か凄く悲しいコトがあったらしく、その場で立ち話を始めちゃったことです。彼女は、その友達に物凄く同情して、ウンウンうなずいたり、悲しそうな表情をしたりしています。
「ええ~!?せっかくふたりで会ってるのに失礼だな…」と青年は思いましたが、口にはしませんでした。ま、それだけ友達思いの人だとも言えますからね。
もう1つ、別の友達がやって来て「浜田君って、どんな人なの?」としつこくきいてきたコトです。
青年は、心の中で「凄く嫌な奴だよ。自分の利益最優先で、人のコトなんてこれっぽっちも考えられない人。好きな人を、トンビが油揚げをかっさらっていくかのごとく奪っていっちゃうような人」と言おうかと思いましたが、口に出すのはやめにしておきました。
代わりに、マイルドな表現に直してこう言っておきました。
「う~ん…いたってフツーの人かな?どこにでもいるようなフツーの人」
それを聞いて、彼女のお友達は「あ、そうなんだ…」と納得した様子でした。
あの人は、なんだか驚いたような表情をしていたのを覚えています。
*
その後も、いろんなコトがありました。ボランティアで会ったり、電話で話したり。表面上はいつも通りに過ごしているように見えましたが、心のどこかで「例の選択」を気にしているように思えました。「自分か浜田君か選んで欲しい!」という選択です。
浜田君を選べば、それなりに楽しい時間は過ごせるでしょう。でも、利己主義者の浜田君にボランティアを支え続けることはできないはず。別にイノベーターというわけでもないので、彼女を大きく成長させてくれることもないでしょう。
逆に青年の方を選べば、目の前の楽しさは失われてしまうかもしれません。もちろん、ふたりだけの世界を作り出し、その世界に没頭してしまう瞬間はあります。でも、ギクシャクしたり疎遠になってしまう時間も長いのです。代わりに、青年の持つ特殊能力であの人の人生は大きくステップアップするはず。1つ上のステージで戦えるようになるかも。
あの人は、そこまでわかっていたでしょうか?
これとは違うかもしれないけれど、何かふたりを天秤にかけるようなコトをして、決断をはかっているように思えました。
そして、運命の日。とんでもないコトが起きます!
その日は、例の母子寮で夏祭りが行われる日で、青年とあの人はふたりで池袋の東急ハンズに買い物に出かけました。
途中でお昼ご飯を食べました。青年は海鮮丼を頼み、彼女は宇治金時のかき氷を注文します。
「ええ~!?お昼ご飯にかき氷!?体によくないんじゃないの?」と青年は心の中で思いました。もしかしたら、口に出していってたかも?
青年の方はというと…
あわてて海鮮丼をかき込んだものだから、ワサビの塊が口の中に入ってしまい、涙目になってしまいました。あの人は、それを見て心配したり笑ったりしています。でも、心の底で何かを決断したような、「何事かを言わなければ…」という思いをしているのが伝わってきました。
この頃は、そのくらい以心伝心。相手の気持ちが伝わって来ていたんですね。
場所を移し、母子寮の広いお庭。
青年とあの人のふたりは、並んで座っています。
子供たちやボランティアのスタッフは、ホースで水をかけあってキャッキャと笑って楽しんでいました。辺りには夏祭りで使った風船釣りのプールや水風船の残骸が転がっています。
ふたりは並んで座ったまま、その光景を眺めていました。
そして、ついに彼女が口を開きます。
「あのコトなんですけど…」
決断がくだされる時が来ました。青年には何のコトかはわかりきっていました。青年と浜田君、どちらを選ぶか決めてくれたのでしょう。
さて、読者のみなさん。運命の瞬間、何が起きたと思いますか?
この物語を最初から読んできた人ならば、もしかしたらこのあとの展開が予想できるかもしれませんね。
でも、おそらく世界中に存在するほとんどの人たちは、想像だにしないでしょう。このあと起きる出来事も。その理由も…
このお話って、それくらい特異で特殊で奇異な物語なのです。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。