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地獄の日々の始まり

さて、次に母親が少年を連れて行ったのは、1軒の古びた建物でした。

2階建ての建物の中にいくつかの教室があり、教室の中では少年少女たちがビッシリと詰め込まれて座っています。そうして、壇上に立っている教師に向かって真剣に耳を傾けながら何事かを学んでいるのでした。

少年と母親は、教師たちが待機している一室に通されました。小学校でいうところの職員室のようなものなのでしょう。ただし、部屋は狭く、明かりも暗い部屋でした。

担当者の説明によると「塾に入るには、厳しい試験がある」ということでした。「しかも、みんな小学4年生の4月から入塾し、中学受験をするには今からでは遅すぎる」と言います。

そう!ここは塾だったのです!

そして、少年は受験戦争に参加するためにこの塾に連れてこられたのでした!しかも、県内の有名校を受験するためのとんでもなく厳しい塾!地元でも有名な鬼のような厳しさ!代わりに合格率は飛び抜けていました。

それでも、少年は担当者の説明を聞いて安心しました。

みんなは小学4年生の春から受験勉強を始めていて、今は小学5年生の秋。受験まで残り1年半もありません。どう考えても間に合うはずがないのです。担当の人も、そう断言しています。

「ああ~、よかった!これでおうちに帰れる!また元の生活に戻って、前と同じように近所に住む友達と公園で野球をやったり、一緒に遊んだりできる」

そう思いました。

ところが、そうは問屋がおろしません。母親は一言、こう答えました。

「では、試験を受けさせてください。そのあとのことは、試験の結果を見てから考えましょう」


こうして、少年は入塾テストを受けることになりました。

最初は「わざと間違えよう」と思っていました。そうすれば試験には落ちて、元の生活に戻れるからです。

ああ!この時、そのくらいのズルさを持っていれば!運命は再び元の人生を歩むためにその歯車を回し始めたことでしょう。

「やっぱりあの子は神童でもなんでもなかったのだわ。天才なんて、そう簡単に生まれるはずないのよ!」と、近所や親戚の人たちにウワサされるだけで済んでいたはずです。

でも、少年はバカ正直すぎました!しかも、テストの問題を解くことがおもしろ過ぎて、ついつい本気を出してしまったのです。本人は全問正解したつもりでいました。


数日後、電話で試験の結果が伝えられました。

同じように入塾テストを受けた子たちの中で、全問正解した子はひとりもいなかったそうです。ただし、少年は見事合格していました。

見事…?

確かに見事でしょう。でも、果たしてそれは幸せなことだったのでしょうか?

「ふふん。そんなの当然じゃん。全部正解のつもりで解いたんだもの。仮にいくつか間違えがあったとしても、合格する程度のことは当然だよ」

そんな風に少年は得意げでした。そういう意味では幸せだったのでしょう。

でも、そんな目の前の幸せが何になるというのでしょう?

もしも、少年がその先にある未来を知っていたとしたら。1年後、あるいはほんの半年後のことでさえ知っていたとしたら。彼は恐怖で身震いをし、全力で塾に入ることを断っていたでしょう。

いや、この時点で「断る」という選択肢はすでに残されていませんでした。たとえ、どんなに未来を見通す能力があっても、それは不可能なコト。なぜなら、少年の母親は操作系の能力者だったのです。

この時点で能力発動の条件は全て揃っていました。10年後…せめて5年後まで成長した少年であれば、あるいはその能力を回避することができていたかもしれません。

でも、若干11歳の子供に操作系を極めた能力者の技をかわすことなど120%不可能でした。


※続きます。かなり丁寧に書いているので、思っていたほどストーリーが進みませんでした。おそらく最低でも10回以上の長期連載になると思います。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。