問題は表面化しないと、みんな気づかない
この頃、少年が見るイメージの1つにこういうのがありました。
「世界を覆うかのごとく、大地にパックリと割れたような巨大な亀裂。亀裂の底はどこまでも深く底が見えない」
「いくつも頭の中に浮かんでくるイメージの中でも、これはわかりやすいな」と少年は思いました。
明らかに自分の心の傷だったからです。
「この穴は一生埋まることはないだろう。この心の傷は一生癒えることはないだろう」
直感的に少年はそれを悟りました。それほど深く大きな亀裂だったからです。
ところが、少年は後にとんでもない方法でこの問題を解決することになります。その方法とは…
もしも、作者が忘れていなければ、時が来た時に語るといたしましょう。
*
少年は午後の授業をサボって、自転車で大きな川の側の公園へとたどり着き、そのまま学校には戻りませんでした。そうして、以前のように家の中で過ごすようになりました。
再び学校に行かなくなると、今度は胃が痛くなってきました。どちらが先だったのかはもう覚えていません。胃が痛くなり始めてから学校に行かなくなったのか。それとも、学校に行かなくなってから痛くなり始めたのか。
いずれにしても、尋常ではない痛みでした。生涯で一度も味わったことのない明らかに異質な痛みです。
ほんとうは外に出るのも人に会うのも嫌でしたが、さすがに我慢の限界を超えて、近所の個人病院の内科に行かせてもらいました。
先生の診断は、以下のものでした。
「食べ過ぎだね。大したことはないよ。念のため胃薬を出しておこう」
いや、それだけは絶対にありません!なぜなら、食事は普通の人よりも極端に減っていたからです。「食べなさ過ぎ」で病気だとしても、食べ過ぎだけはありませんでした。
自分では原因がわかっていました。明らかにストレスから、なんらかの病気になったのです。それで、胃が痛くなってしまったに決まっています!
それで、もう何日か我慢してから、今度はもっと大きな病院に連れて行ってもらいました。そうして、レントゲンを撮ってもらった結果、胃に穴が空いているということがわかりました。病名で言えば「胃潰瘍」というヤツです。
「やっぱり、あの個人病院の診断は間違っていた!あやうく命を落とすところだった!藪医者が!あの病院には2度と行かない!」と決心しました。
そうして、少年は即入院させられ、しばらく病院で療養することにしました。ほんとは家で静かに寝ていてもよかったのかもしれませんが、あの家庭環境のせいでこうなったのです。入院して正解だったのでしょう。
もっとも、あんなに「努力や根性が足りない」と言っていた家族も、今回ばかりはおとなしくなっていましたけどね。
いずれにしても、ここで少年はまた1つ教訓を得ました。
「問題は表面化しないと、みんな気づかない」
子供の頃から、あんなに何百回も「この道は間違っている」と訴え続けてきたのに、ただの1度も聞き入れてもらえませんでした。それどころか、強引に学校を辞めようとしたのに、結局は引き戻されてしまいました。実際には、事態はより深刻化しているというのに…
なのに、みんな、再び学校に戻ったことを喜んでいました。「表面上、問題が解決してればそれでいい」と思っているらしいのです。
胃に空いた穴は、その結果引き起こされたものです。
そして、もう1つ。少年が手にした教訓がありました。
「問題は起きる前に対処するのが最良の戦略である」
その為には仕組みを理解しなければなりません。システムを解析し、何が欠点であるのかいち早く察知しなければ。誰よりも早く!人々が見えていない内に!
それは、未来を予見し、先を見て生きる「イノベーターとしての資質」とも合致しました。
今後、少年はこの考え方を人生の根本原理として組み込むことになります。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。