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未来を予測するという冷たい能力

ある時、青年は『テトリス』というゲームにハマっていました。来る日も来る日も狂ったようにテトリスばかりプレイしたおかげで、目にも止まらぬ速さで落ちてくるブロックにも、瞬時に反応できるようになります。

そうして、ゲームの数字がカンストする9999999まで点数を取れるようになったのです。

それを知った友人のアブちゃんも、「ワイもやったるで~」と、テトリスをプレイし始めます。

ところが、あまりにも熱中し過ぎたため、自動車の運転中にもゲームをするようになってしまいました。

電話でその話を聞いた青年は、「こりゃ、危ないな。今に事故にあうぞ」と思いました。けれども、あえてそのコトを口にしませんでした。自分の未来予測能力を試してみたくなったのです。


1ヶ月ほど経って、アブちゃんから「事故にあっちゃったよ…」と連絡がありました。

青年は「やっぱりな…」と思いました。それと同時にちょっとばかし罪悪感を覚えました。もしも、あの時、事前に警告していたら、未来は変わっていたかも知れないのです。

「自動車の運転中に携帯でゲームなんてしちゃダメだよ。危ないから」と、たった一言忠告するだけで防げた事故だったかも。

これが青年の持つ特殊能力「ディケンズの分解メス」の正体です。物事の法則を学び、事象を分析し、未来を予測する。

予測した未来を言葉をにして本人に伝えると、未来が変わる可能性が格段に上がります。黙ったままなら、世界は本来あったストーリー通りに進んでいきます。

たとえば、「酸っぱいぶどうを食べることになったり」「自動車事故を起こす羽目になったり」

これくらいシンプルな法則なら、誰にでも予測できそうに思えるでしょう。でも、法則をどんどん複雑にし、果てしなく情報量を増やしていったら?大抵の人は、脳の処理能力が追いつかずに間違った結論を出してしまうはず。

それに、多くの人には「個人的感情」というのが入ってしまいます。頭ではわかっていても感情が邪魔をして正確な答えにたどりつけなかったりするもの。


一事が万事、この調子でした。

充分な情報さえ手に入れば、ウイルスが世界中にどのくらいのペースで広がっていくかを予測することだってできます。そこから対応策を導き出すことだって可能。

たとえば、「マスクはした方がいいのか?しない方がいいのか?」「ワクチンは打った方がいい?打たない方がいい?」

データから読み解けば、答えは簡単です。でも、多くの人たちは個人的感情が入ってしまうので、とんでもない答えを出したりもします。

冷静にデータや数値から分析をし、決断をくだすことができれば、「どちらの方法がより多くの人命を救えるか?」は一目瞭然。

けれども、「息が苦しくなるからマスクをしたくない」とか「ワクチンは怖いから打ちたくない」といった感じで、どうしても個人的感情や固定観念が邪魔してしまうのです。

「ディケンズの分解メス」の能力を最大限活用するためには、一切の個人的感情を排し、判断する必要があります。友人であろうが、愛する者であろうが全く関係なく。そう、あの『伝説の悪魔』のように。それは、とてもとても冷たい能力だとも言えました。

人間ってのは、感情があるから人間でいられるのです。いくら緊急時のみとはいえ、感情を一切捨ててしまうだなんて、難易度が高過ぎます。そういう意味で、常人には扱うのが難しい能力でした。

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ヘイヨー
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