まるで「アリとキリギリス」
ある年の冬のコトです。事情があって、母親が東京に行く必要が生じました。青年も、仕方なくついていくことになります。
そこで、ひさぶりに「あの人」に連絡を取ります。さらに、無理を言って2人で会ってもらうことになりました。
待ち合わせの約束をしたのは、池袋の駅。やってきた彼女は、昔と変わらず人をなごませるような笑顔をしています。
最後に会ってから、4年以上の時間が経過していました。
4年前…
あの人は、勤めていたフリースクールをやめて、東京から少し北の方に家族で引っ越しをしていました。
それから1年かけて勉強をし、学校の先生になる資格を取って、非常勤講師を経て、見事中学校の先生になっていたのです。
遠い昔、喫茶店で聞いたあの人の言葉を思い出します。
「私、小学校2年生の時から、ずっと学校の先生になりたかったんですよ」
青年は思います。
「そっか。長い時間をかけて努力を続けて、この人は夢をかなえたんだ…」と。
果たして、それが幸せであったかどうかはわかりません。確かに、彼女は子供の頃からの夢をかなえました。けれども、仕事はとんでもなく忙しく、朝から晩まで働き通しで、睡眠時間もガリガリと削って生きていたからです。
「学校の先生って、思ってたのと全然違ってました…」
そう、あの人は言いました。それでも、みんなから頼られて充実した時を過ごしているようにも見えます。
自由奔放に生きて、何者にも縛られず、常にルールの外にいた青年とは全く別の生き方でした。
まるで「アリとキリギリス」くらい全然違う人生です。
あるいは…
あるいは、この時に青年がなんらかの形で成功していたならば。もしくは、もっとマジメに一生懸命働いて、普通の幸せを与えてあげられる立場にあったならば。今後も2人の人生は交わり続けるコトになっていたかもしれません。
けれども、そうはなりませんでした。この期に及んでも、相変わらず青年は自由な人生を求め続けてしまったのです。
アリはアリ。キリギリスはキリギリスのままでした…