見出し画像

前田損得、回想する(「2121 ~100年後の未来~」 第30話)

22世紀の世界で、マエソンこと前田損得は、過去のコトを思い出していました。

マエソンの父親「損得や。お前の名前には『物事の損得がわかる人間になりなさい』という立派な願いが込めれている。自分のためだけでなく、人々の損得も考えながら生きていきなさい」

マエソンキッド「はい!わかりました!お父さん!」


ところが、マエソンが幼い頃、両親は離婚してしまいます。原因は「教育方針の食い違い」でした。

父親は、自然思想派の母親と大ゲンカ。子供にゾンビウイルスの予防接種を受けさせなかったことが決定打となり、離婚。


それから、20年以上の時が過ぎ…

前田損得とその母親は、ゾンビウイルスを発症。重症化した母親は、近隣の住民を襲い始めたため、自衛隊が出動する大騒ぎとなります。

結果、やむなく母親は自衛隊のライフルによって射殺されてしまいました。

この事件は、当時マスコミに大々的に取り上げられ、世間でも大きな話題に。世論を真っ二つにわける大論争に発展します。

「ワクチンを打ってないヤツが悪い!」「射殺はさすがにやり過ぎだった」「じゃあ、近所の住民は黙って喰い殺されればよかったていうのか?」「そういうわけではないが、他にもやりようがあっただろう」「この期に今度こそワクチン義務化を!」「ワクチン打ってないヤツは、死ねって言うのか?」などなど、激論が交わされました。


100年後の未来も、理想郷ではありません。人々の意思は1つに統一されているわけではなく、過去の時代と同じようにいろいろな人が住んでいて、様々な意見を持っているのです。

この事件は裁判が起こされ、審理は最高裁まで持ち込まれます。

「人にはワクチンを打たない自由もある。ただし、ゾンビウイルスを発症し、他の人に迷惑をかけた場合、射殺もやむなし」

それが裁判所と日本政府の出した結論でした。自由にはリスクが伴うのです。他の人に迷惑をかけてまで押し通す自由。それは、単なるワガママに過ぎません。


やがて、時と共にこの事件も人々の記憶から消えていきました。けれども、当事者であったマエソン自身は決して忘れることはありません。

理想の野菜作りに成功した前田損得は、「大モモ教」と手を組み、自然農法に近い手法で作られた野菜を流通させていくのでした…

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。