地獄からの脱出(中高生地獄の死闘編 ~エピローグ~)
10代の終わりが近づいた頃、ようやく彼の真の戦いが始まりました。
家庭や学校なんて、まだまだ戦争の序盤に過ぎなかったのです。ここから先の戦いに比べれば、基礎訓練みたいなもの。なぜなら、ここから先、たった1人で「世界」を相手にしなければならなかったからです。
子供の頃から何度も何度も声を上げてきました。
「塾になんて行きたくない」
「別に進学校に通いたいわけじゃない」
「学校を辞めたい」
「早く働きたい」
何百回も訴えかけたのに、ただの1度も聞いてはもらえませんでした。あんなにも危険信号を発し続けていたのに、全く理解してもらえなかったのです。
それどころか「努力が足りない」「根性がない」という言葉で片づけられてしまいました。だから、化け物は生まれたのです。世界を滅ぼすことを目指す化け物は…
もはや手遅れでした。
ここまで成長してしまっては、どのような除念師も太刀打ちはできないでしょう。
どんな高名な僧侶や聖者がやって来ても、少年は全ての攻撃を防ぐ自信がありました。それどころか、祓おうとすればするほど、その気を倍化して相手に返してしまうでしょう。敵が本気であればあるほど、反射壁で跳ね返った攻撃は威力を増します。ヘタをすれば、術者本人を呪い殺してしまうほどに…
ただ、唯一、あの女性だけは別でした。頭の中にイメージとして現れる「理想の女性」
「あの人ならば、この心の闇を晴らしてくれるかもしれない」
少年は、心のどこかでそのような淡い期待にすがっていたのです。けれども、その女性は未だ現れず。あるいは、ただの幻想として終わりを告げるのかもしれません。
ここまでの人生で死ななかったのが奇跡。少年を救ったのは、心の底から湧き上がる強い強い意志たちだけでした。
「世界最高の作家になる」という想い、「世界を滅ぼしてやる」という復讐心と、あの「夢の中の女性」だけが希望でした。
*
少年は学校を辞めることにしました。今度は父親も何も言いませんでした。
父親との約束は「将棋の7番勝負に負けたら、学校に戻ること」
その理屈に従えば、たった1日でも学校に通えばよかったことになります。確かに学校には戻りました。とっくの昔に契約は果たし終えていたのです。
少年はわざわざ「学校を辞める」という報告をするために、もう1度学校に向かいます。
友達の多くは「しょうがないよね」みたいな反応でしたが、たったひとりだけ最後まで「高校だけは卒業しておいた方がいい!」と説得してくれました。
が、もはやその道は残されていません。もっと早くに相談していればお話は別だったかもしれませんが…
担任の先生とは別に、尊敬していた国語の先生にだけは、わざわざ学校を辞めるコトを伝えにいきました。すると、「その道はイバラの道だよ」と言ってくれました。
少年はその言葉を聞いてちょっぴり失望しました。もっと気のきいた言葉をかけてくれると思っていたからです。
「何がイバラの道なのだろうか?自由になれさえすれば、それでいい。それに勝る幸せはない。このまま学校に戻る方がよっぽどイバラの道だよ」
そう思いました。
でも、この時の少年は知りません。この後、ある意味で、誰よりも誰よりも深く強く絡み合ったイバラの道を歩むことになるコトを…
そして、その年の秋、少年は100万円持って家を飛び出しました。