シェイクスピアに恋をのせて
仕事帰り バスの中
もうすぐ降りる場所なのに
雨は激しさを増して
バスを降車して 鞄で 頭が濡れぬ様に
少し 駆け足で 家路に急いだ
途中、傘をさす女性を追い抜いた時
(田辺さん?)と呼ばれ 振り返った!
呼んだのは 同じマンションの
同じ階 隣りの 内田さんの奥さん だった
(あの、もし 良かったら 傘……一緒に)
少し戸惑ったが、お言葉に甘え
残り数100mを 一緒に傘に
「すみません 本当に! 朝、傘を忘れ
こんなに降るとは 思わなくて 助かりました」
隣りに住む 内田さんは二十代 後半〜三十代 前半かな?
見た目は もう少し若く見える
この最近は良く、夜に 旦那さんとの喧嘩話しが
近所に響く
お隣なので、会えば挨拶は する程度
確か?旦那さんはIT企業に勤めていて
奥さんは 介護職だったかな?
ま、有り難い事に 余り濡れずに助かった!
エントランスで もう一度 御礼を述べ
一緒にエレベーターへ
余計な事を 口出しする つもりは
無かったが 沈黙のエレベーターもキツイ
「あのぉ、御主人と 何か 有りましたか?
聞くつもりは無くとも 聞こえて来るもので
少し気になって ………あっ、すみません」
(此方こそ 夜に騒いで 本当に 御近所様には
申し訳無くて ……… 仕事と家事 色々と
お互いの意見が合わず ………そんな事は
結婚する前から解っていたハズなのに ね)
「いや、何か本当に すいません 他人の家庭の事に とやかく言うつもりは無いのですが
お子さん でも居たら違うんでしょうね!」
(そうですね……ただ、主人と一緒に 子育て を
考えられなくて……あの人は 昔と違って
仕事が優先に なって 今は無理でしょうね……
私が 全て負担を担う事になるので……)
聞くべきでは 無かった……やってしまった!
重い めちゃくちゃ 重すぎるだろ
可哀想だと思うが 他人の家庭の事に
触れては駄目だな!
最上階エレベーターが止まり 同じ方へ 歩き
手前が 彼女の家庭が在る部屋
僕は一番奥の 部屋 日照権で 最上階は
二世帯だけの創り
もう一度 御礼と、失礼な話しを お詫びして
お互い 部屋へ
後日、土曜の昼に 部屋のチャイムが鳴った
来客の予定は無いし 宅配かな?
モニター確認をしたら 隣りの内田さんの
奥さんが
「あ、はい ちょっと待って下さい」
玄関の扉を開け ペコリと お辞儀をした
(あのぉ〜 コレ もし良かったら……
作り過ぎてしまい …… )
肉じゃが……作り過ぎる事あるの?……
「あ、では 遠慮なく頂きます。今日の
夕食が助かりました(笑) 本当に、すみません」
玄関に飾ってある ロミオとジュリエットの
ポストカードに目をやり 彼女が言った
(私ね! シェイクスピアが好きで 本も読みましたし、何処かで芝居が在ると 見に行くんですよ
この、ポストカードの映画 好きだったな!
現代風にアレンジしてあって 面白かったな)
「あぁ、この映画 僕も少し衝撃的で 流行りの役者を起用した割りには 良く出来ていて
僕もシェイクスピアが好きなもので!」
(良かった シェイクスピアの話しが 出来る相手なんて学生以来だわ! また、話ししに 伺っても
良いですか? ハムレットや、マクベス 十二夜や、夏の夜の夢など!)
「いや、僕の方こそ シェイクスピアの話しなんて久々ですよ! 是非また 話ししたいです。」
それ以来、良くウチで シェイクスピアの物語の 話しで盛り上がり ハムレットのオフィーリアや、
リア王 、シャイロック[ヴェニスの商人]など
色々な作品や、登場人物の事
此処は最上階 二世帯 他からは見えない部屋
他の住民から 噂される事も無いまま
二人のシェイクスピア好きな時間が過ぎて行く
彼女の名前は、内田響子 年齢は三十一歳
僕は三十三歳 響子さんの旦那さんは圭太 三十二歳
似た様な年齢だったし 響子さんは、どう見ても
二十代半ば位に 見えて 可愛い人だろう 一般的に
ある休みの日、僕はカメラマンなので
響子さんに 被写体(モデル)を お願いしてみた
彼女は 顔を真っ赤にしながら 恥ずかしいから
嫌だよ〜っと 随分と 学生時代のクラスメイト並に 馴染んで 冗談も言い合い
そう言えば! 夫婦喧嘩も聞こえなくなったな!
もう、お互い色々な話しを するので
聞いてみたら、楽しい時間を過ごせているから
旦那の愚痴も 受け流せる様に なったと笑っていた それは良かった!と同時に 何か モヤモヤする気持ちが有った
シェイクスピアが好きで 始まり いつの間にか
僕は響子さんに 惹かれて行った
響子さんの気持ちは 僕には解らないけど
相手は既婚者 一線を越えて駄目だし
僕の気持ちは隠さないと ………そんな日々が
続いた ある日
チャイムが鳴った夜
モニター越しに 泣き顔の響子さんが
とりあえず玄関に入れて
「どうしました? 何か在ったのですか?」
(…………………)
「泣いてないで訳を、理由を教えて貰えませんか!」
その僕の問に イキナリ抱き着かれ
玄関の廊下に倒れた
リビングのソファーに座らせ 紅茶を入れ
黙って うつむき泣くままの響子さんを 見ていた
向かいのソファーから 響子さんの隣りへ座り
もう一度 聞いてみた!
(夫が………転勤になるらしくて……私は
どうしたら良いのか 解らなくて)
外では雨が降り出していた あのバスの日みたいに
少し沈黙の後 何方とは言わず 頭を傾け
唇を重ねていた
イケナイ事だとは お互い理解している
ただ、僕は可愛いと思っているし 泣いている
好きな女性を 無視する程 薄情でも無いが
この行為は間違っている!
この数日間 出張だった 旦那さんからの電話で
来月から 支店長になると 言われ
ただ、東京では無く 愛知県だとか
僕は聞いた 何が問題で 泣くのか!
彼女の答えは 曖昧だったが 引越したく無い
今の職場を辞めたくは無い
貴方から離れたく……そこで口を閉じた彼女
最後まで言わず 抱き着かれ再び 唇を重ねていた
今度は 僕も彼女を強く抱き締めて いた
イケナイ戯れ 一時の感情 過ち
どう捉えるかは様々だろう
お互いが抑える事が出来なかっただけ
二人の気持ちは 恐らく同じだったのだろう
朝陽が眩しく 部屋に入り込んだ光
彼女を後ろから抱き締めたままの
ベッドの上
軽い朝食を作り彼女へは紅茶
僕は珈琲と
カウンターに並び 背に朝陽を受けながら
今後の事を 自分なりに考えていた
先に口を開いたのは彼女の方だった
(ごめんなさい私……… 貴方が好き とても
今迄 出会った誰より好き これだけは
ハッキリ言えるわ!)
黙って聞いていた 想いは同じだった
(でもね、私は既婚者で旦那を裏切った事に
後悔も してる 私は イケナイ事をした!
間違った事を でも誰よりも貴方の事が好き
コレだけは事実なの)
「僕が自分の気持ちを抑えられず
貴女に 後悔をもたらした事に 本当に申し訳無い と 思ってます 僕も誰より貴女が好きだった
随分と前から だから……」
僕の口に手を当て 話しを遮り
満面の笑みで僕の顔を見上げ
泣きながら 頷いていた。
全てを理解してた上で 彼女は口付けをして
(私東京を離れるわ! 仕事も また探せば良いだけの事 何よりも、この数ヶ月が私には
掛け替えのない宝物の日々だったもの 貴方も
貴方の写真も シェイクスピアも 好きな私が
居たんだもの)
そうして、隣人は引越して行った
ウチの玄関にはロミオとジュリエットのポストカードと 響子さんが波打ち際で はしゃぐ写真
この二枚が写真立てに収まり 玄関扉の横の小さな窓から入る夕陽に照らされている。
集合ポストに可愛い封筒が一つ
封を切ると 名古屋の街で 赤ちゃんを
抱えた女性の写真と 手紙が一枚
(お久しぶりです。私は変わらず元気に
仕事を しながら 旦那とも喧嘩しながら(笑)
でもね!子供が出来たのよ 可愛い男の子が
私の今一番の宝物 名前はね……拓弥
父親と同じ名前だよ)と 綴ってあった!
ちなみに僕の名前は拓弥 。
切ない イケナイ恋物語
皆様🤗こんばんは🌟
駄目だと解っていても 恋するなんて
割と身近な事だったりしてね!
コレに批判出来るのは当事者だけ
では良き夜を✨
笑顔と感謝を忘れずに🍀