ショートショート ジュリエット釣り
近くで秋祭りがあるというので、見にいく。
小さな神社だ。中央の池では亀が泳いでいる。
まわりを木に囲まれていて、まだ夕方なのに辺りはだいぶ薄暗い。日が暮れるのが早くなった。上着を、着てくればよかったと思った。
灯籠にオレンジ色の明かりがついている。お囃子が聞こえた。たこ焼きと唐揚げと、ジュリエット釣りの屋台が出ていた。
ビニールの浅いプールの中に、気だるげな女の人が数人寝そべったり、座ったりしている。僕はもういい大人だけど、夜のジュリエット達は何か子供達の知らない秘密を隠しているように見える。
店主にお金を渡して竿をもらう。髪の長いジュリエットに向けて投げる。髪にかかった釣り糸を捕まれ、睨まれた。血のように赤い口をしていた。
「あたしのロミオ?」
赤い口が開く。
「命をかけてくれる気はある?」
寒気がして竿を引っ張る。糸が切れた。赤い口の女がそっぽを向いた。僕はなぜか安心した。
運命の恋なんていい。見せ物だけで。
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今週のお題は「ジュリエット」「釣り」です。