見出し画像

ショートショート 屋上稲荷

 一匹の狐がおりました。
 ある日の夜に、黄色いお月様を眺めて、言いました。
 「あれを丸ごとかじったら、さぞかしふかふか、で甘くて、美味いだろう。」
 できるだけ高い崖の上に登って、涎を流して眺めていたら、ばーん。と音がして、猟師に鉄砲で撃たれました。少し目立ちすぎたな。けれどこれでめげる狐ではありません。狐汁になって猟師のお腹の中に入った後、すぐに猟師の夢に化けて出ました。
 「我の魂を沈めるために、高き塚を盛れ。そしてその上に我を祀る稲荷の祠を建てるのであるぞ。」
 とっておきの狐目で言いました。信心深い猟師はおそれおののいて、すぐに言う通りにしました。

 祠にまんまとおさまった狐は思いました。
 「高さが足りない。」
 そこで、また猟師の夢に化けて出て、言いました。
 「今すぐ、鉄砲と、ありったけの家財道具を売り払って、商いを始めよ。」
 とっておきの狐目を、さらにつりあげました。猟師はまたおののいて、すぐに商売を始めます。それが、もう、儲かるのなんのって、あっという間に大きなビルが立ちました。稲荷の祠は屋上に移されます。
 空を眺めて狐は思います。まだ。まだだ。まだ高さが足りない。
 
 「3、2、1。発射!」
 もうもうと煙を上げて、スペースシャトルが飛び立ちました。世界的大企業の社長になった猟師がスポンサーです。コーポレートマークは吊り目の狐。社長のたっての希望で、シャトルの船内には小さな稲荷神社がお祀りされていました。

ショートショート No.157

Novelber No.1「鍵」 | Novelber No.3「かぼちゃ」

140字版