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ショートショート 告白雨雲

「好きなんだ」
少年が自転車をひきながら、隣で歩く少女に話す。少女が驚いて少年の顔を見た。黙ってうつむいた頬が少し赤らんでいた。

少年の口からでた水蒸気が登っていく。いつもより少し水分が多くて、熱を帯びていた。少年と少女が帰り道を歩いていく。日が暮れるのが早くなった。

「ひと雨きそうね」
買い物帰りに井戸端会議をする人の前を通り過ぎる。
「こんばんは」
話しかけられて、挨拶し返した。
「元気ないのね。喧嘩したの?」
おばさんたち、鋭くて嫌だな、と少年は思う。

水蒸気が空までたどり着いた。茜色に焼けている。雲は水を含みすぎてがぶがぶになっていて、今にも崩れて落ちそうだった。

「あ。降ってきた」
少女がようやく口を開いた。掌を上に向けて空を見る。
「自転車、乗って! 早く帰らないと! 私も走るから!」
少女が少年に手を降って、走り去っていく。雨がいよいよ強くなる。
「振られた、かな……?」
立ち止まったまま少年がつぶやいた。秋雨が冷たかった。

ショートショート No.491

たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「告白」「雨雲」です。