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エッセイ 後書き、もしくは書けなかったはなし

 こんばんは。ねこの中の人です。「猫ヶ洞の王さま」をひいひいで書き上げまして現在へたっております。note創作大賞にご応募なさった皆さん、お疲れさまでした。そして、読んでくださった方々、どうもありがとうございました。

 note大賞の有無に関係なく、「夏に名古屋を舞台にした連作を書こう」というのは去年から決めていたことで、そのための準備もしていたのに、事前にサムネイル画像はおろか、話の骨子すら準備しきれず、情けない、という気持ちばかりです。

 調べ物の好きなたちで、取材に行った写真などをSAND BOXのおまけとして何枚か載せさせていただきました。私が奇抜な展開やストーリーを思いつく才覚がないせいもありますが、実際の街ほど面白くて謎が深いものはないな、と思っています。自分で締め切り決めないと、きっとずっと調べ物と称して遊び回っているでしょう。

 このお話はもともと「ねこと殿様」という900字程度の小さなお話です。

 ここに猫が人を乗せて走る話が出てきまして、所謂「思いついた」は、ここが起点です。
 以前、趣味で街歩きツアーに参加した際、古い区画にある細い路地に突然出現する大きな時刻表を紹介していただいたんです。それも、電車の駅にあるようなでっかいやつです。
 こんな狭い路地に電車が来るの……? と一瞬思いますが、どうも、この時刻表がかけてあった壁の建物は看板屋さんに関係があったようです。過去形ですね。この時刻表、今回の話を書くのに、取材にもう一度訪れてみたらなくなっていました。静かな住宅街の細い路地にあったので、私みたいに見に来る人が出て、迷惑がかかってしまったのかもしれません。本当に申し訳なかったと思います。記録として写真もあるのだけれど、そんな理由でここには載せられない。(すごく摩訶不思議な景色だったんですよ)。

 不思議な景色、といえばもうひとつ。話の最初の方に少し書いたくせに、ストーリーには全然活かせなかった名鉄瀬戸線、「せとでん」の痕跡も面白い街の景観なのでご紹介しましょう。これは名古屋市が現地に史跡として看板を立てているくらいのものなので、載せられます。こんな感じ。

この謎の草はらの切れた向こう側には堀川が流れています。

 左端にちょこっと見えるのは「御園橋」という名古屋城の外堀にかかる歩行者用の橋で、普通に道路を歩いていると、見落としてしまいそうな場所にあります。(Googleマップで調べれば見つかりますけどね)

 この景色、なんかちょっと変でしょう。橋なのに、水が流れていない、っていうこともあるんですが、なんかね、「ここ、何か走るのでは……?」みたいな感じがします。しかも、左側になんかある。(※かつて駅のあったあたりが公園になっています)

 公園から撮った違うアングルの写真もご覧ください。

 なんか電車感ありません?
 下から見たアングルもありますぞ!(取材のいいところは、ただの興味本位の時より「これは調べものだ!」という自分の中の大義名分があるところです)

 ここには写っていませんが、この謎の空き地のすぐ向こうには図書館、右手は名古屋の交通量の多い道路、振り向いた反対側には堀川、そのすぐ向こうは名古屋駅などのビル群です。街中にいきなりこんなぽっかりした空き地がある。学生の頃、図書館に行くたびに「なんか変だ…」と思っていました。さっき書いたように、正体はかつてあった、名古屋城の外堀を走る電車、「せとでん」の跡です。ここにかつては線路と駅、そして電車があったんですよね。それ自体は跡形もないし、覚えてる人も今では多分少ないのに、街はまだ痕跡を残してる。覚えてるんです。

 私が街の変な場所やその歴史を、特に目的もなく調べてしまうのは昔からで、「せとでん」自体も学生時代には一度調べていた記憶があります。でもすぐに忘てしまった。「せとでん」がなぜこんな変な場所を走っていたのか、当時の自分には理解しきれなかったからです。今回、やっとわかりました。瀬戸の焼き物をこの先の堀川に運んで、水路で県外や海外に運ぶのが当時の効率のよい輸送法だったから。(そして、今はないのは、現在では他の運送法の方が経済的だから)。堀川の船(また別の記事でご紹介します)に乗せてもらって、それがちゃんとした輸送路なんだとよくわかりました。本当に、人の住む街は面白いなあと思います。書き切れなかったの残念だなあ。そして、この痕跡の面白さよりも、もっと面白い話を書けるようになるといいなあって、思います。


エッセイ No.118