ショートショート ミュンヒハウゼン
姉に子供が産まれたとき、正直、ちょっと焦った。
これで自分も名実共に「おじさん」だ。
出産祝いを贈って、クリスマスプレゼントを贈って、お年玉を贈って、ホワイトデーを贈る(乳幼児がチョコレートなんかくれるかよ。贈ってくんな、姉よ。)。正直、ちょっとバカくさい。義兄さん、金持ちなんだ。東京に住んでるし。今休んでるけど、姉も高給取りだ。買おうと思えばなんでも買える。俺が贈るもの、本当に喜ばれてるんだろうか。
カードを買ってきた。女の子が喜びそうなのを買うのはちょっと恥ずかしかった。『おたんじょうび おめでとう』書き始める。絶対姉が読む、ということが一瞬頭をよぎるが、ふり払う。存在しないことにしよう。
よし。書けた。
素早くカードを封筒に入れた。プレゼントの箱につっこむ。読み返したら出す勇気が折れる。
「足長おじさん?」
数日後、姉から電話がかかってきた。やはりか。からかわれるとは思っていたが。
「おじさんだけど、足は長くない。」
「あんたがそんなことするだなんて、思わなかった。嬉しかったよ。」
「姉ちゃん喜ばせるためにやったんじゃねえよ。」
いいものが買えないから、おまけにつけたとはいいにくい。プライドの問題だ。
「とにかく、ありがとね。」
クリスマスカードも書くか、とふと思う。洋画とかでよく見るもんな、あれ。一回くらいやってみてもいい。それらしい文も書けるといい。
図書館で文例集を探す。こんなの書く機会ないよ、と笑ってしまう。子供むきか、と思い絵本の棚に行く。絵本あげるの悪くないかもな。被っちゃうかもしれないけど。
ふと、思いつく。俺がお話書くのどうかな。それなら被らない。毎回手紙に嘘八百を書き連ねるのだ。しばらくは下手でも、小さいから分からないだろう。物心つくまでに上手くなれば、こんなおじさんでも尊敬してもらえるかもしれない。
参考に何冊か物色する。ばかばかしいやつがいいな。笑えるようなの。腹抱えて笑って、それでおしまい。ためになる話とか抜きで。喜んでもらえれば、それでいい。
いつか大きくなった姪から電話がかかってくるのを夢想する。
「プレゼントありがとう! カードも! いつも楽しみにしてるんだよ!」
「そうかいそうかい。」
「お母さんが、ほめてたよ! 足長おじさんみたいねって!」
「そうだろうそうだろう。でもおじさん、おじさんだけど足は長くないんだよ。あと、血統的には確かにおじさんなんだけど、おじさんて呼ばないで欲しいんだ。」
「わかったよ! じゃあ、なんて呼んだらいいの?」
ーーなんて呼んだら?
俺は考える。なんて呼んだらいんだ?
「ーーミュンヒハウゼン。」
そうだ。そのくらいがちょうどいいな。
「大嘘つき。君専属の、ほら吹き男爵だ。」
ボーカロイドを使って曲を作っていらっしゃるビリー。さんの曲に歌詞を提供させていただきました。自分の書いたものをボカロが歌う日がくるだなんて思うわなかった。
すごくいい曲で、あまりに気に入ってしまい、朝に繰り返し聞いては夢中になりすぎて会社に遅刻しかけています(阿呆です)。
なんだろうこれ、すごいこと起きた、と思っている。
いつもお世話になっております。どうもありがとう。
曲のリンクはこちらです。よろしければ聞いてみてください。
(歌詞が私なの、ちょっと恥ずかしくて実は正視できない。)