ショートショート 坂の上の
坂道、といえば大学生の頃。山の上、つまり坂の上に校舎があった。
その一方で、駅は坂のふもとにあり、大学に着く前に一旦山登りをしなくてはならない。体育の日に寝坊したら最悪で、体育館は山の上の大学の、さらに坂の上のにあった。つまり体育をする前に一旦山登りをして、のちに坂を駆け上がり、その後着替えてまた一から運動を始めないといけない。すごくハード。
坂の上の大学の、さらに坂を登って体育館の、さらに上を目指すと動物園があった。大学生の上に君臨するのは動物なのだ。逃げて放射能を浴びただとか、鶏を盗んできて食べたやつがいるだとか、まことしやかな噂が流れていた。
大学生の頃は山の上は山ばかりで、どんなに登ってもずっと上があった。(頂点は動物だったが。)
今、実家に帰ってくると、昔は違ったことを思い出す。
海辺の実家には高い山がない。せいぜい丘といったところ。どこかに行くために坂道を登れば、高い山がないここでは、どこでも、眼前に海が広がる。「更に上」なんてない。ただ青く広い、海ばかり。
登ってきた坂道を下る。潮の匂いが近づく。上を目指さない毎日もある。
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140字小説版