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ショートショート(と、朗読) てるてる坊主のラブレター【SAND BOX 1099】

ー彼のまわりには雨が降るのですー

 雨男がいました。彼のまわりには雨が降るのです。 雨男の家族もまた雨男。一家は引っ越しをしてばかり。一度、雨男が駄々をこねて同じ街にとどまったことがあります。5日間雨が降り続き、6日めの朝に川から水が溢れました。家族は大急ぎで街を出ました。ごめんなさいごめんなさいと謝りながら。

 ある日雨男の名を呼ぶ人がいました。ひとりの女性でした。雨男にはすぐにわかりました。昔、洪水の街にいた少女です。彼女といたくて、雨男は駄々をこねたのでした。
「生きていたのね」
 女性が言いました。それからカフェでいろんな話をしました。窓の外に雨が降り始め、どんどん強くなっていきました。

「長居をしたね」
 雨男は寂しそうに笑うと、ポケットから何か取り出して女性に渡しました。小さく手を振り、店を出て行きました。
 雲間に光がさしました。女性の手にはてるてる坊主がありました。 
「君の笑顔がもう曇ることがないように」

 街を背にした雨男が呟きました。


イラスト:つかだ

SAND BOX 1099 No.045

 声のお仕事をされている(詩や小説も書いておられます)水上洋甫さんにお願いして、朗読をしていただこう、のシリーズ「SAND BOX 1099」です。

 今月のイラストはつかださんにお願いしています。
 振り返らない雨男の決意の感じが素敵だと思います。

 つかださん、トップ記事には、名古屋コミティア65に参加する旨記事を置いておられます。ブース番号はBー59とのこと。


 そして、名古屋コミティア、ねこの人も参加予定です。

 2024年09月29日(日曜日)11:00−15:00
 場所は名古屋国際会議場イベントホール(入場料700円がかかります。)
 私のブース番号はA-24、珈琲まねきねこです。

 8月わたわたしていて、新刊が持っていけませんが、既刊2冊と雑誌星々の最新号をお持ちいたします。
 名古屋のみなさま、どうぞよろしくお願いいたします。


今回の元の記事はこちら。

 前回のSAND BOXはこちら。

 全体をマガジンにまとめています。