ショートショート 沈む寺
昔、貴族の家に気分屋の次男がいた。気に食わないことがあると誰彼構わず怒鳴り散らした。
「怒鳴っても人は動かん」
父親が咎めたが頬を膨らませるばかり。仕方がないので出家をさせることにした。仏門に入れば穏やかになるだろうと思ったのだ。
貴族の息子だ。寺の誰もが次男にごまをすった。次男は益々居丈高になり、我慢ができなくなった僧がひとりふたりと寺を去った。
ある朝目覚めると次男はひとりぼっちになっていた。呼んでも誰も返事をしない。苛立って柱を蹴飛ばした。するとどうだ。ズズン、と音がして寺が地面にめり込んだ。
「この、オンボロ寺めが」
次男が罵る。罵れば罵るほど、寺は沈んでいった。次男は恐怖し「悪かった」と叫んだ。天から声が聞こえた。
「褒めてやりなさい」
「なんて素晴らしい寺」
叫ぶと寺がわずかに浮かんだ。次男は何かを理解した。
今では彼は立派な住職だ。他の僧たちの信頼も厚い。寺もいつも一寸ばかり地面から浮いているという。
ショートショート No.740
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「沈む寺」です。
先週のお題は「この中にお殿様はいらっしゃいますか?」。小粋でポップなヒスイさんも書いています!
(なんかやる気がでたんです? いいことあったんなら、良かったなあって思っていますよ。いつだって、そう思うよ。)