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ショートショート 黒い目をした かいぶつ

かいぶつが一匹 荒れ野にすんでいた
真っ黒い目で 毛むくじゃらの
誰も 近くに住んでいなかったけど
なかなかの住み心地で 気に入っていた

あるひ かいぶつは
荒れ野に 小さな花をみつけた
うす紫色で 綺麗な色だ
柵でかこって 覆いをつけて
大切に 大切に眺めた

かいぶつの毛皮は珍しかった
綺麗じゃないけど 高く売れる
人間たちがやってきた
かいぶつは 酷く臆病だったから
隠れて様子をうかがった
押し合いへし合いの人混み
やがて

ばちん

誰かが柵を踏みつけた

唸り声があがった 地面が震えた
大きな 真っ黒い瞳が 人間たちを睨んだ
ひとりつかんで 握りつぶした
ふたりつかんで 放り投げた
馬も車も飲み込んだ

花はもうない

目から黒い涙が溢れでた
そのまま 街の方へ 家を飲み込み 人を飲み込みながら
兵隊さんを飲んで 大砲をのんで 戦闘機をのんで

そしたら ふと歌が聞こえてきた

子守唄だ
なつかしい 小さな花を思い出した

かいぶつは眠った 涙を流しながら


ショートショート No.77

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