ショートショート 金魚かわいや
祭りの屋台で捕まえた、金魚掬いの金魚が弱くてすぐ死んでしまうかというとそうでもなくて、少し太ったメダカみたいな赤いそれは、水槽を独り占めしてむくむくと大きくなった。
餌のやり方もわからない子供だったから、食べるうちはやったらいい、と思い込み、金魚が求めるがままに顆粒の餌をふりかけた。金魚が食べる。魚の目はどうして横をむいているのだろう。ずっとこっちを見たまま、ぱくぱくと、少しつついては離れを繰り返して腹に収めていた。
ほどなく拳ほどの大きさになり、「金魚はああ見えてフナの仲間だ」と物知りの友人に聞かされても何も驚かないようになった。そうこうするうち夏祭りがまたやってくる。何の気もなしに金魚掬いにまたいく。赤くて小さい、かわいい金魚。
ようやく掬い上げた小さな2匹を水槽に放つ。次の朝にはいなくなっている。水槽の底に小さな骨が浮かんでいる。大きな、フナのようなあいつが、瞬きもせず、横を向いたまま、目だけでこっちを見ている。
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140字版