ショートショート どこにでもいる、なんでもある本屋
『田中中小企業診断士事務所』
入り口に小さな看板がつきました。本屋さんが眺めて言いました。
「…ださ。」
看板には随分余白がありました。足りないから。税理も法務も。社労士も…座り込みました。吐き気がしました。仲間探すか、勉強しないと。まじか。長えよ、道のり。いや、もう決めたことだ。
店の中には少し物が増えました。資料を置く本棚。お客さんが座るソファ。自宅に置いてあったファイルを運びながら、宝さん呼ばないとな、と呟きました。
店の奥のレジ台は残しました。なんとなく。全部なくなってしまうのは寂しかったから。台の後ろに座って頬杖をつきました。魔法の伝票はもうありません。ポケットからスマートフォンを取り出しました。安藤君にメールを打とうとしました。いい本のタイトルが浮かんだのです。もはや癖になっていました。突然『ストーカー』という言葉が頭に浮かんで、手をとめました。ちょっと考えて、青い鳥のアイコンを押します。ハッシュタグをつけました。
「#架空タイトル」
「#テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる」
サンタクロースの部屋では、ようやく割れた窓が塞がりました。働き詰めの小人が「おやつおやつ」とうわ言のように言いながら工場に戻っていきます。暖かくなった部屋に、ヤモリがおりてきました。机の上に置きっぱなしの白い本を見て、どきどきしながら上に乗りました。本が話し始めました。こんな風に。
ショートショート No.202
※このショートショートは
12月1日から25日までの25日間毎日投稿される連続したお話です。
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」(全25話)
第二週「書房 あったらノベルズ」7
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
1st week 「サンタクロースと雪の怪物」
「小さなオルゴール」
「雪の怪物」
「北極圏から徒歩5分」
「泣き虫と弱虫のジンジャーマンクッキー」
「どこかにある、なんでもある本屋」
2nd week「書房 あったらノベルズ」
「書房 あったらノベルズ」
「カフェ 空想喫茶」
「珈琲 小雪」
「宝写真館」
「趣味の店 緑のウール」
「洋菓子 トロワ」
「どこにでもいる、なんでもある本屋」
3rd week 「真っ赤な嘘つき帽子」
「阿蘭陀冬至 別れの始まり」
「勇者 あんどう」
「遊び人 たなか」
「戦士 こゆき」
「賢者 さんた」
「ねこの とうめい」
「誰かのための夜」
4th week 「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」
「雪の中のオルゴール」
「小雪の怪物」
「不思議なバタークッキー」
「サンタの家まで、あと5分」
「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
「ひさしく まちにし」