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ショートショート 毒吐くかぼちゃと告白雨雲

「この、いたずらかぼちゃが!」
夜の街に、おばあさんの声がこだましました。うけけけけ、とカスタネットみたいな笑い声で、かぼちゃ頭のジャックが逃げていきます。
「ばばあ、ざまあみろ!」
笑いながら言って、ひらりととんで、近くの教会の屋根のてっぺんに座りました。街の様子がよく見えます。おばあさんがジャックを追いかけるのを諦めて家に入るのが見えました。

「また、いたずらしたのかい」
夜空のお月さまが言いました。
「まあね」
ジャックが片足をぶらぶらさせながら答えます。
「生意気だからさ、あのばあさん」
「嫌われるぞ。悪態ばっかりついてると」
ジャックが嫌な顔をします。図星でした。
「いいんだ。甘い事ばっかり言ってると、なめられる」
「本当はかまってほしんだろ」
「そうでもないさ」
「ほんとうに?」

お月さまは聞き上手です。一晩かかって、ジャックにいろんな話を聞きました。
ほんとはちょと寂しいこと。おばあさんがかぼちゃのパイ作りが上手なこと。一回でいいから、ジャックもそれを食べてみたいこと。

「秘密だ」
すっかりしゃべってしまったのを後悔しながらジャックが言いました。
「絶対に、他のひとに言っちゃだめだぞ」
「もちろんだとも」
お月さまがにっこり笑います。
「お前たちも、聞かなかったことにするんだぞ」
「はあい」
お月さまのまわりの雲たちが、目をこすりながいいました。ジャックが話がうるさくて、一晩じゅう眠れなかったのです。
「じゃあ、俺は墓場に帰るから」
ひらり。
マントを翻しながら、ジャックが教会の屋根をとび降ります。お月さまがにっこり笑って見送りました。

「また、昨日のかぼちゃ頭だね!」
夜です。またおばあさんの叫び声。スープに使うかぼちゃを台無しにされたおばあさんがジャックを追いかけて家を飛び出しました。
「捕まるもんか!」
ジャックが嘲笑います。すると、ぽたり、と雨粒が落ちました。
「まあ!」
おばあさんが声をあげて立ちどまります。驚いた顔でジャックを見ました。

「なんだ?」
ジャックもおばあさんを見ました。
おばあさんは何も言わずに、ちょっと考えて、それから自分の家に戻って行ってしまいました。
「は? え?」
ジャックがうろたえます。すると、ぽたり。ジャックのかぼちゃ頭にも雨粒が落ちました。

ーーそうだね。本当は、ちょっとさみしいかな。ーー

昨日の自分の声でした。動揺する間もなく、またぽたり。

ーー知ってる? あのばあちゃん、とってもお菓子作るのうまいんだ。かぼちゃのパイ、食べてみたいなあーー

「ぎゃああああ」
ジャックが両手でかぼちゃ頭を押さえて叫びました。キッと空を見上げると、昨日のお月さまのところにいた雲が、居眠りをしているのが見えました。

「あいつ!」
恥ずかしさに震えながら、ジャックが雲に抗議しようと指を振り上げます。

「焼けるよ!」
大きな声がしました。おばあさんの家からです。
「おいしいかぼちゃのパイが、もうじき焼ける! たくさん作るから、きっとあまっちまうねえ!」
パイ生地の焼けるいい匂いがしました。
ジャックが恥ずかしくて震えました。

「どうしよう! だれか食べにこないかねえ!」

「おぼえてろよ!」
ジャックが雲に向かって言いました。雲はくうくう寝息を立てています。

ひらり。マントをひるがえして、ジャックがおばあさんの家にとんでいきます。
空ではお月さまがくすくす、声を殺して笑っていました。

ショートショート No.497

たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「告白」「雨雲」
裏お題は「毒吐くかぼちゃ」
裏のほうはハロウィン的なものだそうなので、ここはひとつ、ハロウィンに全振りしてみました。字数は無視です。ごめんなさい。