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ショートショート 鍵付き

 部屋を掃除していたら小物入れに小さな鍵が入っていた。500円玉ほどの大きさで、平べったい、突起がひとつついているきりの小さな鍵だ。指で摘んで眺める。不用意に捨てて、何かが開かなくなったら困る。思い出した。確か、日記の鍵だ。

 高校生の頃、立派なノートが欲しかった。外国製だったり、手製本だったり。紙の透かし模様にときめいて、フルース紙の肌触りを何度も撫で回して喜んだ。そして鍵付きの日記を買った。

 ノートが立派になることで、自分の日常も何か立派な、ドラマチックなものになる気がした。大した秘密も書いていなかったし、鍵をいちいち開けるのが面倒なので、やがて鍵は開けっぱなしになった。硬い表紙が扱いにくく、ほどなく日記に飽きた。

 確か日記帳は捨てたはずだ。半分も書いていないノートに、飽き性の自分を思い出すはめになるから。この鍵はもう何もあけられない。でも記憶の箱が開いたから、小物入れに戻しておいた。

ショートショート No.156

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 お題企画「Novelber」に参加します。11月の間、毎日、決まったお題をもとに140字小説を投稿するtwitter上の企画です。

 字数のサイズを規定して書く度に語りの大きさについて考えます。大風呂敷の大きさ、というか。時間内に広げたものを「さ」と回収したい。それには広げる話題、布の大きさをよく考えないといけません。
 たまに、140字に書いたものをnoteの方でリライトすることがあり、文字数を制限しないで初めてこんなに大きな布だったのか……と驚愕することもあります。

 参加の目的は語りの改善です。私は長い話を書こうとすると『児童文学みたいなもの』を作ってしまいます。特別な意図もなく、全部そうなります。特に童話などを志した時期はないのに、どこに出しても「子供向けの」という冠が自動的にくっつきます。

 子供向けがいいとか悪いとかではなく「自分は大人なんだけどなあ……。」という思いが何度も重なってしまい、私は自分の『子供向け』の文章があまり好きではありません。けれど、一旦向き合ってみようかと思います。できれば改めるのではなく、いかす方向で。1ヶ月お題が規定されるので、内容を探す行為が省ける分、文章部分に力を入れることができます。

 お題に答えること自体はあんまり得意ではありません。たいてい「そうじゃない」感じのものを返してしまいます。だから今月は内容が退屈になるかもしれません。あれ?もともとそんなにエキサイトメントでしたっけ?
 猫の中の人の偏屈ぶりが無駄に発揮されてしまう1ヶ月になってしまうかと思います。ごめんなさい。よろしければ、お付き合いを。

Twitter版はこちら。(140字を書き起こすと、視点などの構造変化が起きる場合があり、それはそれで新しい発見があります。)