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ショートショート 残りものには懺悔がある

 夜勤明けの自分はいつにも増して性格が悪い、らしい。昨晩仕事の愚痴ばかり言う私に夫が言った。
「疲れてるからって俺にあたるなよ」
 腹が立った。他人事みたいじゃないか。
「誰かと違って忙しいですから」
 私が言うと、夫は何も言わずに寝室に引っ込んでいってしまった。夫は休職中だった。
 朝になっても夫は布団から出てこようとしない。出勤前に「昨日はごめん」と背中を向けたまま布団を被る夫に言った。聞いていた、ような気がする。

 帰宅。もう深夜というか朝だ。なるべく音を立てないようにドアを開けた。部屋の電気は消えている。
 廊下の明かりをつけ、台所の冷蔵庫を開けた。皿に盛った焼きそばと添え物のほうれん草にラップがかけてあった。夫はいつも食事を作っておいてくれる。夫の夕食の残り物、と言えなくはないけど、有難い。
 皿に付箋が付いていた。何か書いてある。

『お品書き ご麺菜彩』

「いいよう」
と言ってレンジにかけて食べた。少し塩がきいていた。


ショートショート No.735

たらはかにさんの毎週ショートショートに参加しています。
今週のお題は「残りものには懺悔がある」です。