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ショートショート(と、朗読)  星と大金持ち【SAND BOX 1099】

ー「語り合う友にはならんか」ー

 大金持ちがいました。摩天楼のてっぺんに住んでいて、寝る前にいつも街を見下ろします。宝石を散りばめたような夜景です。ため息をついて言いました。
「あの灯のどこにも、私が語り合える友人はいない」
 孤児から成り上がった大金持ちには商売敵がたくさんいました。ひとりぼっちの部屋を見回すと、高価な美術品が所狭しと飾ってあります。
「語り合う友にはならんか」
 壁にかかった絵をなでました。外国の貴族が描かれた肖像画です。大金持ちの方を見て、微笑んでいるようでした。

 翌朝、馴染みの画廊を呼び出しました。肖像画を売り払って、小切手を二枚切りました。一枚は故郷の孤児院へ。もう一枚は小さな雑貨店へ。大金持ちが初めて働いたお店でした。 

 次の日も、また次の日も大金持ちは寄付をしました。残りの美術品はもちろん、車も家も会社も売り払い、とうとう一文なしになりました。公園のベンチに横たわって、かつての住まいを見上げます。
「語り合えるかな。お前たちなら」
ビルの上にはたくさんの星が輝いていました。

イラスト:着ぐるみ

SAND BOX 1099 No.028

 声のお仕事をされている(詩や小説も書いておられます)水上洋甫さんにお願いして、朗読をしていただこう、のシリーズ「SAND BOX 1099」です。
 今月も、ちょっとおまけつき。語り重視のバージョンです。本編にはより軽さのあるバージョンを使わせていただきました。こちらの方は水上さんのいい声が堪能できます。ぜひどうそ。

 そして、今月は着ぐるみさんにイラストをお願いしました。以前、私がウミネコ童話集に応募した際、イラストを描いてくださったnoterさんです。どことなくとぼけた感じが素敵な絵をお描きになられます。

 一ヶ月間、よろしくお願いいたします!