誕生秘話と込めた想い〜自己紹介に代えて
おはようございます。
へいなかです。
ご訪問,誠にありがとうございます。
匿名でやっている手前,自己紹介用の記事はあえて書いていないのですが…僕が発信を始めた理由はきちんと書いておいた方がいいような気がしました。
どうか少しだけ,お付き合いください。
(5400字くらいあります)
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僕「へいなか」は,2018年4月に誕生しました。
当時は「塀の中の教室」というアカウント名でした。
その年の6月頃に,もう少し親しみやすくしたいと思って
「へいなか」という愛称を付けてみました。
以来,2年8ヶ月。
(令和2年師走現在)
大変ありがたいことに3700を超えるフォローを頂戴し…へいなかという愛称で呼ばれることも,僕(中の人)にとって,普通のできごとになってきました。
これからも…
塀の中の教室(少年院)で教育に携わる者として,自分なりに発信を続けていきたいと思います。
フォロワーのみなさま,
いつも本当にありがとうございます。
(3700は全国の法務教官の数より多いのです!)
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東日本大震災を気にLINEが急速に普及し,
facebookが市民権を得て…
政治家がTwitterで発信するようになった。
「ググる」がメジャーになり…テレビCMは視聴者にググらせるための入口になった。
塀の外のそんな変化をよそに,わが業界は一切…なんの変化も起きませんでした。
法務省矯正局が本腰を入れてSNSやYouTubeでの発信を始めたのは,実は令和2年になってから。
それまでは…
いかにも役人が作ったクソつまらない情報だけのwebページと,一部の法務教官がこっそり愚痴を書き合うような掲示板があるだけでした。
#逆効果にもほどがある
法務教官を目指す人が現役法務教官の話を聞く機会はなく,現場の実態を知る機会も皆無で…
時々あったと思ったら,現場を離れてずいぶん経つどこかの幹部や,普段非行少年とは向き合わない管区や局の職員のかしこまった話だけ…
そして
法務教官の志願者は年々減少。
若手法務教官の質の低下も叫ばれるようになった。
芸能人がブログを書き,
企業が公式アカウントを運営し,
インスタグラマーが台頭して…
発信していない情報は,存在していないも同然
という世の中になったのに…わが業界は,職員まで塀の中に閉じこもって,世間にその仕事のほんとうの姿すら伝えられていない…
そんな状況をなんとかしたくて,
僕は誕生しました。
へいなか誕生前の約半年…
様々な面で僕は悩んでいました。
やるかやらないか…
匿名性を保てるのか…
発信を続けられるのか…
どんな内容を発信すべきか…
数ヶ月悩み,検討し…それでもなんとか2018年4月に誕生し…今改めて思います。
はじめてよかった。
多くの出会いに恵まれて,
多くの学びを得ることができて,
多くの人に話を聞いてもらえるようになった。
あの頃思い描いていたことが…
少しずつ現実になってきています。
改めて
僕の拙い発信を読んでくださっているあなたに,心から感謝申し上げたいと思います。本当にどうもありがとう。
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少しずつ…
いくつかの項目に分けて書いてみようと思います。
僕が発信に込めている想いと狙い。
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1)認知度の向上
法務教官はマイナーな仕事です。
基本的に誰も,名前すら知らない。
法務教官は法務省矯正局所属の国家公務員。
自衛隊や警察などと同じ,公安職。
少年司法の考え方次第で今後消滅する可能性は0ではないけれど…でも基本的にはなくならないし,必要な仕事。
だけど誰も知らない。
法務教官になるのは大抵…心理系か法律系の学部を出た人たちで,彼らは講義の中で偶然この仕事を知り,そのうちの何名かが志す。
法務教官は…少年院や少年鑑別所で非行少年と関わり,その教育的な関わりによって,改善更生を促すのが仕事。
つまり
仕事内容は「罰を与える」ではなく「教育」だ。
けれど
教育を志す人達のところに,我々の存在は届いていない。
そして…
世間にも認知されていない。
仕方がないことだけれど…「法務教官です」と自己紹介したのに,次会ったときに「刑務所で看守やってるんだよね」と言われたことも何度もある。
だから僕は,もっと知ってもらいたい。
法務教官という仕事が世の中に存在していることを。
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2)法務教官の印象の改善
10年くらい前…「DJポリス」というのが話題になった。
サッカー日本代表のワールドカップ出場に沸く渋谷のスクランブル交差点で,狂喜乱舞のサポーターをユニークな語り口で駅に誘導し,逮捕者や事故を激減させた警察官だ。
彼が当時,車の上からこんなことを言っていた。
目の前の怖い顔したおまわりさんも,
サッカー日本代表のワールドカップ出場を
心の底から喜んでいるんです。
私達も一緒に喜び合いたい。
けれど
今ここでそれをやっては事故が起き,
せっかくの選手の活躍が
後味の悪いものになってしいまいます。
皆さんは12番目の選手です。
どうか立ち止まらず,
駅の方へお進みください。
この誘導にサポーターは沸き,
警察官に暴力で訴えることなく,
駅へと歩を進めました。
この誘導には優れた点がとてもたくさん含まれていますが,何よりも…
冒頭で雑踏警備にあたる警察官たちへの印象を変えさせたことが,本当に素晴らしいと僕は思う。
鉄仮面のようなおまわりさんたちが,実は自分たちと同じなんだということ…
そのメッセージから生み出された空気が,その後のメッセージの効果を最大化しているように僕は思う。
さて,
われわれ法務教官はどうだろうか。
「少年院の教官です」という紹介が世間の人の頭の中で生み出すイメージは,実態に即しているのだろうか…
無表情で腕を組み,
革靴のかかとで足音を鳴らしながら,
短く硬い言葉で指示を出す…
そんなイメージではないだろうか。
僕はTwitterの中で…時に漫画や映画,スポーツやお酒の話をする。子育てや妻とのエピソード,Twitterを介してつながった友人たちとの世間話なども少なくない。
法務教官が血の通った生身の人間であるということを伝えたくて,可能な範囲で発信に混ぜ込むようにしています。
僕は無機質な監視ロボットではなく,みなさんと同じ社会で,同じように生きている人間です…
というメッセージを込めて。
無表情で腕を広げて警備にあたる警察官と同じように,僕もまた…塀の中で非行少年と真剣勝負をしながら,家族や友人と一緒に人生を楽しむ人間の一人。
そして塀の中でも…
時に冗談を飛ばし,
鬼滅の刃を語り合い,
非行少年と一緒にジャージで走り回って汗をかく…
そんな姿が少しでも伝わっていたら,
僕は本当に嬉しいです。
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3)現場の声を社会へ
法務教官は,希望すれば試験と研修を経て幹部への道が開ける。
そして,
幹部になれば非行少年を指導する機会はほぼなく…一度幹部コースに行った者が現場に戻ってくることはまずない。
つまり…
幹部になるということは,残りの法務教官人生を,非行少年ではなく現場の法務教官たちと向き合って生きていくということだ。
それが必ずしも悪いわけではないし,幹部の存在は絶対に必要なのだけれど…こと広報や宣伝にあっては,そこをきちんと把握しておく必要がある。
基本的に,メディアや一般の方の前に姿を表すのは,幹部なんだ。
現場の法務教官ではない。
10年もすれば非行の実態も非行少年の傾向も変わるのに,今まさに最前線でそれを体感している人の話は聞けず…前線を離れて久しい人の話が,数少ない「法務教官の声」として紹介される。
そんな状況が,望ましいはずがない。
世間が一番知りたいのは,現場の声だ。
だから僕が発信している。
あくまでも個人的な経験と考えに基づくものだから,代表でもなんでもないけれど。
(余談だが,矯正局が作成したYouTubeの動画でも,実際には幹部が出演している部分が多い。)
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4)少年院と刑務所の区別を
近年,様々なところでその在り方が議論されているけれど…それでも基本的に刑務所は「罰を与える施設」だ。
その一方で,
少年院は「矯正教育を授ける施設」だ。
だから
少年院の根本的な目的に「罰を与える」は含まれていない。…そこが誤解されている。
そもそも
少年院と少年刑務所,少年鑑別所などが…
全然区別されていない。
「悪い子とした奴をぶちこんで懲らしめる施設」という印象だ。
さらには…
「少年法があるから未成年は刑務所に行かない」なんて完全にまちがった理解もまだ残っている。
16歳からは刑務所に行く可能性があります。刑務所よりも優先して少年院を検討する…というのが,現在の法制度。スーパーざっくりした説明だけど。
そんな誤解や認識不足を,少しでも是正できたらいいなと思っています。
(なお,この20年くらいで刑務所での改善指導は急速に充実してきている。われわれ法務教官も負けてはいられない。)
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5)少年院を卒業した人たちへ
少年院を出る(「仮退院」と言います)と,保護観察がつく。
保護司や保護観察官が,
保護者をたすけて,
再犯防止を支えていく。
とはいえ,仮退院後のサポートは十分とは言えないのが現実だ。
背景や原因はともかく…現に劣悪な環境や関係の中で育ってきた者たちにとって,少年院から出たあとの社会は決して暖かいものではなく,寒風の中で必死に歩みを続けなければならない。
耐えきれず
やりきれず…
再犯してしまう者もいる。
それでも…
再犯した者でさえ,かつて少年院で世話になった法務教官のことは悪く言わないことがほとんどだ。
彼らにとって,数少ない「本気で向き合ってくれた大人」である法務教官の存在は…外に出てもなお,決して小さくはない。
だからこそ,
僕の発信を通して少年院生活を思い出し,当時の気持ちを思い出すことが,再犯防止のちからになることもあるんじゃないだろうか。
耐えきれないかも
やりきれないかも…
そんな瀬戸際で,僕のことばが,かつての恩師のことばと重なって,自分をもう一度奮い立たせるちからになることも…あるんじゃないだろうか。
そんな期待を込めて…
わずかでも再犯防止のちからになることを信じて, #塀の中の教室 をつぶやいています。
(僕のフォロワーの約10%は,かつて非行していた人たちです。)
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6)教育や子育てに悩む人へ
これは発信をはじめてから気がついたことだけれど…
法務教官の仕事は,同じように子どもと向き合う人たちにとって,興味深く,また時に刺激や気づきに溢れたものらしい。
僕は,自分の発信がこんなにも学校の先生たちに見てもらえるとは思っていなかった。フォロワーさんの中で一番多いのは教員だと思う。
教員のみなさま…
いつもみなさまの発信から刺激を頂いています。
ブラックだの時代遅れだのと揶揄されることの多い仕事ですが…みなさんの実践と,そこに受け継がれているノウハウは,われわれ法務教官が襟を正して耳を傾け,学ぶべきとても優れたものと思っています。
この3年弱の中で,僕はみなさまから頂いた知恵や手法をたくさん現場に持ち込みました。
これからも,ともに学び合っていきたいと思います。いつも本当にありがとうございます。
とにもかくにも…
僕の発信が,目の前の子どもたちとの関わりに対して,なんらかのヒントになっていたらとても嬉しいです。
なにかあれば気軽にDMください。
時間のゆるす限り,一緒に考えたいと思います。
人の世が続く限り,教育という営みが消えることは絶対にない。
だからこそ…
こうして繋がれたことを本当に嬉しく思います。僕の発信がみなさまに受け入れられていることが,僕の発信をこっそり見ている法務教官たちにとっても励みになっていると思います。
改めて,感謝申し上げます。
ありがとうございます。
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7)法務教官志望者と若き法務教官へ
僕は,現場のいち事例に過ぎません。
数少ない情報源として活用してもらえたら嬉しいです。
この3年弱の間に,フォロワーさんの中から10名くらいの法務教官内定者が出ました。(報告をくれた人ほんとうにありがとう。嬉しいです。)
その一方で責任も感じています。
僕が発信している内容の多くは…
「僕が」
「今の現場にいるから」
できていることだったりする。
習うより慣れろ
教わるより盗め
のこの業界で,若手がのびのびと仕事することは…正直なかなか難しい。
それでも僕は…みなさんがのびのびと働くことで,生徒たちにいい影響を与えてくれることを信じています。
だからこそ,
個別面接や日記へのコメントに悩んだとき,自分の指導の在り方を見つめ直すひとつの参考になればと思っています。
現場の先輩には相談しにくいこともあるでしょう。
ともどもに塀の中で奮戦したいと思います。
がんばりましょうね。
応援しています。
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長々書きすぎました。
ほかにももっともっとあるけれど,
代表的な僕の想いはこんな感じです。
ここに書いた7つの想い…
それがあってここまで続けることができた。
そして,発信を通して僕自身が学ばせてもらっている。
改めて確信しています。
僕は誕生してよかった。
フォロワーのみなさま,いつも本当にありがとうございます。
これからも,どうぞ,お付き合いください。
へいなか
放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。